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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
三章  異質
31/67

3-7

「シモン達の席って、ここじゃなかった?」

 夕食の時間、俺とパトリック、クライフのいつもの面子にそう声を掛けてきたのはノヴァだった。

「なんだ、知ってたのか? なら、それは嫌がらせか」

「どうしてそう捻くれるの」

 ノヴァの指差した先は、まさに彼女の座る席の机で。それが俺達の普段座っている席だと知っていて座っているなら、嫌がらせ以外に何があるのか。

「あれだろ、ノヴァは俺達と一緒にディナーと洒落込みたかったんだろ?」

 茶化すようなクライフの言葉に、ノヴァは曖昧に頷く。

「そうね、部分的には合ってる」

「部分的?」

「私が用があるのは、シモンだけだから。後の二人は出来れば席を外してほしいくらい」

 顔を上げたノヴァの視線は、一直線に俺だけを向いていた。見つめる、というよりは睨むと表現した方がしっくり来るくらいの眼力に、無意識に目を逸らす。

「……がんばれ」

 逸らした視線の先、肩に置かれた手と、その主であるパトリックのやけに神妙な顔からその頭の中が透けて見えて。

「かましてやれ」

 その反対、もう片方の肩に手を乗せたクライフの口元は下世話に歪んでいた。

「いや、待て。だからどうしてお前らはそう極端な――」

「引き止めないで。せっかく素直に行ってくれたんだから」

 示し合わせたかのように同時にこの場を去っていく二人を引き止めようとするも、その行為をノヴァが止める。そうこうしている内に、二人の姿は視界から消えていた。

「それで、何の用だ?」

 もはや仕方ないと割りきって、ノヴァの前に腰掛ける。

 なんだかんだ言って、パトリックもクライフも俺をからかっているだけだろう。また後で何か言われるかもしれないが、それより今はノヴァの用事の方を優先してもいい。

「…………」

「別に俺が食べるのを待ってくれなくてもいいぞ」

「はぁ……」

 気を遣っているのかと思って話を促すも、返ってきたのは溜息だった。

「先に言っておくけど、私はまだシモンを許したわけじゃないから」

「許した? 俺がお前に何かしたか?」

「別に。何もしてないんじゃない?」

 らしくもなく拗ねた様子のノヴァは、しかし渋々ながら話し始める。

「だとしても、チャイにはどう?」

「チャイ?」

 首を傾げかけたところで、ノヴァの視線が更に一段と鋭くなった。

「さっき訓練場で戦った事か? 良く知ってるな」

「……見てたから」

 そこで一瞬、ノヴァの気勢が削がれた。

 おそらく、ノヴァは俺とチャイが連れ立って教室を出た後を追い、訓練場での出来事を盗み見していたのだろう。いくらノヴァがチャイと仲が良くても、今の段階でつい先程の敗北について聞かされているわけもなかった。

「どうせわかってないだろうから単刀直入に言うけど、シモンはチャイを弄んだ」

 しかし盗み見について糾弾する間もなく、ノヴァはその目に怒りを取り戻していた。

「俺がチャイを弄んだ? ひどい字面だな」

「手心を加えたつもりなら、それは逆効果よ。あの子だって、あなたとの実力差くらいわかってた」

 冗談めかして間を置こうとするも、半ば無視するように話は続く。

「いっそ、ヒースみたいに一撃で終わらせてあげた方が、まだ良かった。負けたとわかっていて、それでもその後も戦い続けないといけない気持ちがあなたにわかる?」

 その声は、明らかな糾弾だった。

 そして、だからこそノヴァの言わんとする事が俺にもやっと理解できた。

「……わかるさ、嫌というほど」

 チャイが言っている意味、力量差を見せつけられる残酷さ、そしてそれをされた側の気持ちを俺は誰よりも知っているつもりだった。

「そうか、そうだな。たしかに、そうだ」

 俺がつい先程チャイに行った事は、見方によってはそうとも取れる。チャイの技術、能力の全てを出させ、その上でその全てを凌ぎ切るなんて真似は、一種の手加減、こちらからの攻勢や妨害を行わないという条件がなければ成立しないのだから。

「私だって、シモンに悪気があったと思ってるわけじゃない。ただ、チャイのプライドが傷ついたのには変わりがないから」

 口調を少し緩めたノヴァの言葉は、しかし半分も頭に入ってこない。

 今、俺の頭の中を占めていたのは、どこか懐かしさを覚える暗い感情だけだった。

「悪い、ノヴァ。少し一人にしてくれ」

「シモン?」

 ほとんど手を付けていなかった夕食を流し込むようにして片付け、ほとんど自動的に席を立つ。

「お前の言ってる事は正しい。でも、その行動を多分チャイは喜ばないと思う」

 最後に残した言葉への反応を見る間もなく、俺の足は食堂を後にしていた。


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