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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
二章  傑物
22/67

2-13

「で、いつなんですか?」

 カレーライスを片付けた後、食後のデザートにやけに豪華なチョコレートパフェをつつきながらトキトー先生の話を聞く。こんなものが食堂にあるとは、そしてあれほど高いものだとは今の今まで知らなかった。とてもでは無いが自分の金で買おうとは思えない。

「うぅ……なんで男の子のくせにパフェなんて頼むのよ」

 パフェを奢ってくれたトキトー先生は、レシートを眺めて恨み言を口にしている。

「夕食を食べ終わったタイミングで、なんでも奢るなんて言われたからです」

「普通はそういう時、遠慮してアイスとかジュースにしない?」

「先生、強要された遠慮はもう遠慮じゃないんですよ」

 項垂れる先生を眺めながら、過剰な甘さを舌で転がす。

「それで、いつなんですか?」

「いつって、何が?」

「さっきの話ですよ。三年生と戦うとかいうの、日時は決まってないんですか?」

「ああ、言ってなかった? それなら、明日の午後だけど」

 やっと返ってきた問いへの答えは、しかし明らかに不都合なものだった。

「明日? 明日は、ノヴァとの模擬戦があるんですが」

「大丈夫、私もフレクトの担任なんだから、そのくらいわかってるわよ。ハートピースとの模擬戦が一時からで、三年生との予定は四時からだから、時間的にはまず被らないでいけるでしょ」

「はぁ……まぁ、それはそうですけど」

 先に行われるノヴァとの模擬戦に影響が無さそうなのは良いが、それでも一日に二戦も実戦形式で対戦を行うというのは中々にハードだ。

「ただ、ノヴァとの模擬戦で従器が故障するかもしれませんし、消耗して十分に力が出せないかもしれません。それで負けても文句は言わないでくださいよ」

「うーん、負けるのは少し困るなぁ。別に、それで一年生の実習が無かった事になったりはしないだろうけど、じゃあ戦ったのは何だったんだ、ってなりそうだし」

「なら、戦わせなきゃ良かったんじゃないですか?」

 難しい顔をするトキトー先生に、俺の隣に座っていたクライフが口を挟む。

「だって、あの子達、一年生の事馬鹿にするんだもの。一年生の担当としては、見返してあげたいと思うのは当然じゃない?」

「やっぱり、先生は優しいなぁ」

「いや、実際に見返さなきゃいけないのは俺だからな」

 いい先生アピールに騙されそうになったパトリックを諭し、こちらに引き戻す。やはりどうにもパトリックはトキトー先生に甘い。

「パフェ奢ってあげたんだからグチグチ言わない! ……と言うか、もしかして、というよりほぼ間違いないだろうけど、二人もさっきの話聞いてた?」

 俺に喝を入れた後、トキトー先生はやっと気付いたかのように俺の隣に座るパトリックと、同じく途中から合流していたクライフへと視線を交互に向ける。

「何を今更。二人どころかあの時周りにいた野次馬は、大体話を聞いてたでしょう」

「……うわぁ、やっば。また面倒臭い事になりそう」

 うんざりした表情で、若干口調の崩れた先生が机に突っ伏す。

「まぁ、実習については三年にも漏れてたみたいですし、それも今更じゃないですか?」

「一年生に漏れるのがまずいのよ。ねぇ、二人も実習行きたい?」

「そりゃあ、もちろん」

 話を振られ、まず反応したのはクライフだった。クライフに関しては、先生と三年生の揉め事を直接聞いてはいなかったが、ここまでの会話で十分に事情は察しており、そもそも実習については俺から聞いてしまっている。

「俺は、別にどっちでも」

 積極的なクライフと異なり、続いて返したパトリックはそれほど乗り気では無いらしい。

「うーん、やっぱりね」

「何がやっぱりなんですか?」

 一人頷くトキトー先生に、こちらから話を促す。

「実習に行きたがる子も、結構いるだろうって事。でも、カウス従器工場に一年生を行かせるのはあくまで特例だから、行きたい全員を行かせてあげるわけにはいかないし」

「誰も行きたがらないよりはいいと思いますけど」

「三年生になったら、誰も行きたがらない実習先も出てくるのが問題なのよ」

 そこが本音という事か、トキトー先生は大きく溜息をついた。

 教師サイドの悩みの一端を垣間見てしまったが、正直なところ俺にはどうしようもないし、どうにかしてやろうとも思わない。

「とりあえず、俺がノヴァとの模擬戦で何かあった時のために、代わりに戦ってくれる人を探しておいた方がいいと思いますよ」

 パフェも残り少なくなってきたところで、そろそろ切り上げようと話を戻す。

「そんな! 一度引き受けたんだから、責任持って戦って勝ってくれるんじゃないの!?」

「いや、明日だとは聞いてなかったので。それに、勝てるとは言ってません」

「それは、だって知ってると思ってたし……そもそも、代わりなんて誰に頼めばいいの?」

「ヒースにでも頼めばいいじゃないですか。たしか、あいつは明日空いてたでしょう」

「他のクラスの子に頼むのはちょっと……」

「はぁ……」

 いつもは余裕を持って見えるトキトー先生が、今はやけに情けなく見えた。生徒にそう思われるというのは、教師としては割りと致命的な気がしないでもないが。

「まぁ、何も無ければ予定通り俺が行きますけど。一応、気に留めといてください」

 食べ終わったパフェの容器とトキトー先生を置き去りに、友人と共に席を立つ。

「えっ、どこ行くの、フレクト?」

「どこって、寮に帰るだけですよ。明日の準備もあるので」

「そ、そっか。そうね、明日の模擬戦がんばって!」

「はい、また明日」

 最後になんとか先生としての顔を取り繕ったトキトー先生に別れを告げ、俺達は寮への道を歩き始めた。


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