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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
二章  傑物
21/67

2-12

 リニアス高等学園の食堂は、一年から三年までの全学生に加え、教師陣にも専用の区画などの用意されていない完全自由席の形態を取っている。もっとも、時が経つにつれてなんとなく自分達の席というものは決まってくるものであり、俺やパトリック、クライフもあえて待ち合わせなどせず、普段から同じ場所で共に食事を取っているのだが。

「ん……なんだ、うるさいな」

 そんなわけで、いつも通りに食堂に入り、カレーライスを注文していつもの席に向かう途中、やたらと熱の籠もった怒声が耳をついた。

「なんで一年が実習に行くんですか!」

「そう言われても……実習先のたってのお願いだし。大体、なんで私に言うの?」

 声につられて顔を向けると、どうやら一人の女性教師とそれに詰め寄る六人ほどの生徒が騒ぎの中心のようで。生徒の方の顔にはどれも見覚えが無かったが、女性教師の方は見間違えようもなく俺の担任であるハル・トキトー先生その人だった。

「一年に枠を一つ割いたせいで、俺達が北の端にまで行かなくっちゃならないんですよ!」

「だから、私はそれについては知らないって……」

「知らないってなんですか! そんな無責任な!」

 ところどころ聞こえる限りでは、カウス従器工場に一年生が実習に行く事を知った三年生が、トキトー先生に不満をぶつけているといったところか。一年生の担任であるトキトー先生が実習先の決定権を握っているとも思えないが、若く威圧感のない先生と丁度鉢合わせた事で、運悪く不満の捌け口に選ばれてしまったのだろう。

「大体、カウス従器工場なんて最大手の一つじゃないですか。一年生に実習が務まるとはとても思えません!」

「でも、一年生で、って要求してきたのはあっちの方なのよ」

「それをどうにか交渉するのが先生の仕事じゃないんですか?」

 次々に責め立てられるトキトー先生を不憫に思わないでもないが、だからといって割り込んでいって助けてやろうとは流石に思えない。俺に出来る事は、せめてこの喧騒から離れた席を探し、そこに座る事くらいだ。

「おっ、シモン。なんか騒いでるみたいだけど、どうしたんだ?」

 立ち見の野次馬から退散しようとしたところで、背後から声を掛けられる。

「パトリックか、ちょうどいい。騒がしいから席を変えようかと思ってたところ……」

「あっ、フレクト! ちょっと、こっち来てくれない?」

 友人への席の変更の相談は、しかしその原因である騒ぎの張本人からの声に遮られた。

「窓際の辺りにしないか? クライフには連絡しておくとして」

「いや、いいけど、先生が呼んでるのはいいのか?」

「いいんだ」

「良くないから! 少しだから、来て、来なさい!」

「ほら、何か必死だし、行ってあげよう」

 やけに優しいパトリックの勧めもあって、渋々ながらトキトー先生の元に足を運ぶ。パトリックがトキトー先生の事が好きだというのは、案外本気だったのかもしれない。

「なんですか、お腹空いてるんですけど」

「フレクト、この子達と戦ってくれない?」

「はぁ? たしかに仮二級従者資格はありますけど、俺を雇うんですか?」

「護衛しろって言ってるんじゃなくって! この子達、一年生を実習に出すなんて信頼できないって言うから……ね?」

 言葉尻は濁したものの、要するに一年生の力を見せてやれといった類の事が言いたいのだろう。ちらりと視線を向けると、三年生六人はこちらをそれぞれ睨みつけていた。

「……まぁ、いいですよ」

 ほんのすこし考え、そして了承する。

「えっ、本当に?」

「もちろん、何かしら見返りがあると嬉しいですけど」

 正直なところ面倒な話ではあるが、普段は接する機会の無い三年生と戦うという事自体には少し興味がある。

「本気か? お前、本気で俺達とやるのか?」

「先生の頼みなので。それに、達って言っても全員と同時に戦うわけじゃないでしょう」

「そりゃあ、やるなら一対一だろうけど……」

 淡々と返してやると、徐々に三年生の方の勢いが削がれていく。三年生としては一年生相手に負けた時の恥ずかしさといったら無いだろうから、それも仕方ない。一旦戦う事になってしまえば、困るのはあちらの方だ。

「先生、こいつは実習のメンバーなんですよね」

「そうね、フレクトは今度の実習に行ってもらう予定になってるわ」

「……わかりました。なら、受けましょう」

 それでも、流石に一年には負けないだろうと思ったか、あるいは一度言い出して引けなくなったのか、やがて三年生の内の一人が俺との対戦を呑んだ。

「俺が勝ったら、実習については考え直してもらいますよ」

 腹をくくったのか、三年生は毅然とした態度でそう言い残して去っていった。

「……それについては、私じゃなくてジョネル先生に言ってもらおうかな」

 それに聞こえるか聞こえないか、おそらくギリギリ聞こえないように返したトキトー先生の呟きは、俺の耳にははっきりと届いていた。


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