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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
二章  傑物
20/67

2-11

「で、なんで俺なんだよ」

 第六訓練場に足を運んだところ、目当ての人物はちょうど模擬戦を終えたところだった。

「今のところ、俺が戦い終わったのはヒースとお前だけだからな」

「ああ、そういう。まぁ、別にいいけど」

 掛かった時間の短さも示すように、欠片も模擬戦の疲れを見せず、それでもクライフは少し困ったように手元に視線を移した。

「実は今、従器が調整中なんだよ。この前修理してからどうも、なんか調子が悪くて」

「それなら、手元のそれは何だ」

「ああ、これは調整室からの借り物。つっても、かなり急いで同調したのもあって、正直まともに動かないってわけで」

 マニュアル操作ではなく、脳からの電気信号、つまり腕や足など身体を動かすのと同じ要領で指示を出すという従器の性質上、どうしてもそれを操る従者ごとには微妙な癖がある。それを補い、個々に最適化された『身体と同じレベルの操作感』を実現する為の調整の事を、一般に同調と呼ぶ。

 この学園では従器の専門家である管理職員の協力の元、長い者では一週間ほど掛けて同調を行うのだが、クライフの言い方だとおそらく自分で適当に済ませたのだろう。更にその上、クライフの手に握られた従器はところどころ変色し、全体的に年季を感じさせるような明らかな型遅れの品だった。

「流石に、これでシモンの相手すんのはどうよ?」

「よくそれで模擬戦をやろうと思ったな……」

 たしか、午前の成績別授業ではまだ自分の従器を使っていたはずだが、そうなると模擬戦直前で従器を調整に出した事になる。それでも勝てる、と読んでの行動、実際にそうだったのだから問題は無いと言えば無いのだろうが。

「でも、それなら仕方ないな」

 手に合わない従器のクライフと俺が訓練をしても、どちらにとっても良い結果にはならない。それならまだ、おとなしく一人で従器を振っていた方がいい。

「ああ、待った、シモンって実習の話聞いた事あるか?」

 幸いにも場所は訓練場、そのまま自主訓練を始めようかというところで、クライフが気になる話題を口にしてきた。

「実習? って言うと、実習過程の話だよな」

「そうそう、工場とか発電所とかの警備するあれ」

 言われて思い出した、というわけでもないが、実習といえばトキトー先生から聞かされた話が頭に浮かぶ。

 たしか二週間後、人数は六人だったか。人選はともかく、その中の一人に数えられている俺としては、少しは準備もしておく必要があるのかもしれない。

「それで、カウス従器工場への実習の話なんだけどさ」

 逸れかけた思考に合わせたように、クライフの話題もそちらに寄っていく。

「なんだ、知ってたのか。そっちの担任から聞かされたとか?」

 現在学年七位のクライフは、単純に成績上位六人から選べば実習のメンバーからは漏れるが、それでも十分に候補ではある。俺と同じように、準備のために予め話を聞かされていたという事なのだろう。

「ん? いや、そういうわけじゃなくて。俺はただの噂だと思ってたんだけど……シモンがそう言うって事はつまりそういう事で合ってるのか」

 何かを察した様子のクライフに、こちらも同じようにある事を察する。

「……ちなみに、元はどういう話をしようとしてたんだ?」

「三年の実習先からカウス従器工場が漏れてるから、もしかしたら二年か一年が代わりに実習に行くんじゃないか、って噂があるって話だったけど。どうやら、一年だったみたいだな。もしくは、一年二年の合同か?」

「一年だけだ。ちなみに、人数は六人」

 クライフはふざけた態度に似合わず、かなり頭が回る。前もってそこまで絞られた噂があれば、俺の一言で答えに辿り着くのは当然と言えた。

「でも、よくそんな噂が出回ったな。三年の実習先なんてどうやって知ったんだ。そもそも、それがわかっても、あっちの都合で中止になった、で終わりじゃないか?」

「まぁ、この噂が回ってるのは三年の間でだからな。俺は、ただ偶然それを聞いたってだけ。それに、優秀な生徒に前もって唾付ける為に、あえて一年とか二年を実習に寄越させる企業もちょくちょくあるみたいだし」

「あぁ、そういう事だったのか」

 上位から数えれば、当然ながら優秀な三年生の数は限られているが、本来は実習に行かないはずの二年生や一年生に関して言えばそうではない。トキトー先生の話を聞いてから引っ掛かっていた、なぜあえて一年生を指名するのかの理由の一端がわかった気がした。

「でも、六人か。道理で、俺には声が掛かってないわけだ」

「まだ微妙なところだけどな。この前トキトー先生が言ってた限りだと、あの時点で全員は決まってないみたいな話だったし」

「そうなのか? だとすると、シモン、ヒースは確定として……多分ノヴァもだろ。実力で言えばカーマも入るけど、あれを外に出すかどうかは微妙だな。マシューとオルゴはセットだし……だとするとアリスとかもあるのか? チャイには勝ったから大丈夫だろうけど、パトリックも全然あり得るよな。いや、男女比とかあるとすると……」

「その感じだと、行きたいのか」

 にわかに悩み始めた友人に声を掛けると、勢いのいい頷きが返ってきた。

「当然。カウス従器工場の専属従者ほどの高待遇は中々無いぜ。それに、実習先としても近くて楽だって聞くし」

「やたらと詳しいな」

「まぁ、大体は三年に聞いた話の受け売りだけどな」

 先程の噂の件といい、クライフはどうやら上級生と関わりがあるらしい。同じ寮生活とは言え、あえて関わろうとしなければそんな機会もなく、クライフが上級生と話しているところを見た覚えもないので少し意外だった。

「その辺りで悩んでるなら、学校の方も実習で当ててくるんじゃないか?」

「なるほど、それもそうだな。……でも、俺の今日の相手って思いっきり雑魚だったじゃん。そうなると、俺はもう圏外って事じゃね?」

「いや、それに関しては何とも」

「やっぱり気になるから、ちょっと他の奴にも聞いてくるわ」

「あっ……まぁ、いいか」

 早足に去っていってしまったクライフの背を見送り、俺は一人で従器を振るう事にした。


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