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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
二章  傑物
19/67

2-10

 ノーラ・アトリシアは、俺の幼い頃の友人、いわゆる幼馴染だ。

 記憶が正しければ、初めてノーラと出会ったのは俺が七歳になった直後。ただ、その頃の印象は俺の中ではごく薄く。俺の中でノーラが鮮明に印象付けられたのは、十歳を過ぎたくらい、父から従器の扱いについて手解きを受けるようになってから、更に少しの時が経った時期の事だった。

 当時通っていた従者のジュニアスクールでも常に上位を争い、現役の従者である父、従器管理の職に付いていた母の二人からも手放しの賞賛を受けていた俺は、ふと遊びの一貫でノーラと訓練用の従器を交えてしまった。

 そして、そこで完膚なきまでに負けた、というならまだ良かったのかもしれない。

 だが、実際はそうではなかった。あくまで遊び、勝ち負けを明確に定めていたわけでもないが、それでもあの時点で優っていたのは明らかに俺だった。それも当然の事、ノーラはあの時に初めて従器を手にしたのだから。

「……呑気な奴だな」

 部屋で一人、携帯端末を眺めて呟く。

 このリニアス高等学園は、全寮制の学校にしては珍しい事に、寝室として一人部屋が与えられている。ただ、寝室として、という言葉が示すように、個々の部屋にはベッド一つとおまけ程度の空間しか存在しておらず、俺を含めた多くの生徒は普段は談話室等で自由時間を過ごしているのだが。

 それでも、今こうして自室に籠っているのには、当然ながら理由がある。

「こうして見る分には、別に普通なんだけどな」

 端末が映すどうでもいい世間話や近況報告、その差出人は他でもないノーラだ。

 今の時代、住む場所が離れたからといってそれを機に完全に関係が消えて無くなるというわけでもない。ノーラが王石保持者候補生に選ばれ、国の機関の近くへと住居を移してから、正式に国家特別王石保持者となり、そして現在に至るまで、少なくとも週に一度はこうしてノーラからの電脳空間越しの連絡が届き続けている。

 対する俺の返事は数回に一度程度。あまりにも返事をしないでいると、山のように催促が届くため、時々は相手をしてやらなくてはならない。

 当たり障りのない内容を打ち込んで送信し、そのまま携帯端末は放り投げる。

 俺がノーラと従器を交えて勝てたのは、結局は最初の一度だけだった。

 数ヶ月の間を空けて、再び従器を手に俺に挑んできたノーラは、その時には既に当時の俺よりも強くなっていた。その後の事は、あえて俺が語るまでもなく。明らかな才能を露わにしたノーラは、ついには国家特別王石保持者にまで上り詰める事となった。

 片や従者育成の為の学園の一生徒、片や従者の頂点。立場や力関係が大きく変わってしまった今でも、ノーラの俺への対応は欠片も変わらない。

 だからこそ、現在最年少の国家特別王石保持者という肩書き、熾天使(セラフ)の二つ名、そういったものは後付けの要素でしかなく、俺にとってのノーラ・アトリシアは今もあくまで幼馴染の少女でしかありえない。

 そんなノーラと対等でありたいというプライドが、俺に今のノーラから目を背けさせていた。マスメディア等でノーラの名を見るのを極力避けているのも、友人に『ノーラ・アトリシア』と幼馴染であると告げずにいるのも、全てはそのためだ。

 もし、今の俺がノーラと顔を合わせるような事があれば、それに耐えられるかどうかは俺自身にもわからない。無機質な液晶画面の文字列を通して見る時、俺の脳裏に浮かぶのは幼い頃のノーラだ。その幻想が崩れ、あの時よりも更に開いたであろう現時点での彼女との差を目の当たりにした時、平静を保てる自信は無い。そして、おそらくほぼ間違いなく、ノーラはすぐこの近くにまで来ているのだ。

「……やめよう」

 余計な事を悩んでいても、気分が重くなるだけだ。ノーラから会おうと催促されたわけでもなく、そもそも多忙なノーラが俺の為に予定を空けるのは難しいだろう。それなら俺はただ、今出来る事をするだけだ。

 狭苦しい部屋の扉を開けて、廊下へと一歩を踏み出す。

 次のノヴァとの模擬戦が、近いところではおそらく一つの山だ。十分に準備と調整をしておこうと、まずは練習相手を探す事に決めた。

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