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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
二章  傑物
18/67

2-9

「なぁ、聞いたか? ノーラがこの辺りに来てるって噂」

 午後の授業も何事も無く終わり、一息吐いていた頃。そんな俺にとっては穏やかでない話を切り出したのは、パトリックだった。

「そのノーラっていうのは、ノーラ・アトリシアの事か?」

「そう、シモンの好きなノーラだよ」

「……ああ、そんな事も言ったか」

 妙にくすぐったい話題に、思わず顔をしかめる。

 友人二人との恋話で俺の番が回ってきた時、ごまかし半分でついノーラの名前をあげてしまって以来、俺はノーラの事が好きだという事になっている。もっとも、有名人であるノーラへの好きは、アイドルなどへのそれと同じ類と受け取られているようだが。

「えっ、ノーラさんが来てるって本当に!?」

 二人での会話に勢い良く割り込んで来たのは、意外にもチャイだった。

「い、いや、だからあくまで噂だけど……」

「噂って言っても、目撃情報とかはあるんでしょ? どこにいたの?」

「えっと……駅前のショッピングモールと、フォルネ記念公園での写真は上がってたな」

「すぐ近くじゃない!」

 最寄り駅前のショッピングモールはもちろんだが、フォルネ記念公園はこの学校と駅の間に位置しており、まさに目と鼻の先と言える。ただ、予想より近くでのノーラの目撃情報も気になるが、昼休みには落ち込んでいたチャイの豹変も気に掛かる。

「どうした、いきなりはしゃいで。躁鬱か?」

「……余計な事言わないで。はしゃいでるように見えるなら、それは私がノーラさんのファンだからよ」

 俺に相談を持ちかけた事は知られたくないのか、小声で釘を刺した後、チャイは初めて聞く事実を口にした。

「なんだ、それならシモンと同じだな」

「何よ、あんたもノーラさんのファンだったの?」

「この年代なら、大体はそうだろう」

 国家特別王石保持者と言えば、従者にとっては憧れであり最大の目標でもある。同年代のノーラに関しては尚更で、それが好意かどうかはともかく、まったく関心が無いという者はほとんどいないだろう。

「まぁ、そうよね。あんなにかっこいいんだもの」

「もしかして、チャイが男嫌いなのって、そういう事だったのか?」

「同性愛だとか言ってるなら、違うから」

 パトリックの呟きは、鋭い視線と共に切り捨てられる。俺も同じ事を思い浮かべていたが、口にしなくて良かった。

「しかし、ノーラがかっこいい、ねぇ……」

「何よ、まさか自分の方がかっこいいとか言うんじゃないでしょうね」

「勝手に発言をでっち上げて勝手に軽蔑しないでくれ」

「あぁ、シモンはノーラが世界で一番かわいいと思ってるからな」

 言ってもいない発言を責めるチャイに続き、パトリックも好き勝手に言ってくれる。

「そうなの? まぁ、かわいいと言えばかわいいのはそうだろうけど」

「別にそういうわけじゃない。あと、世界で一番とは言ってない」

 適当なところで話を切り上げ、一思いに席を立つ。

「どうした? トイレか?」

「いや、もう寮に戻ろうかと思っただけだ」

「そうか? それなら、俺も戻るかな」

「ちょっと、ノーラさんの話は? まだ何かあるんでしょ?」

 俺に続いて立ち上がろうとしたパトリックを、しかしチャイが引き留める。

「じゃあ、そういう事で」

「あっ、シモン……」

 足止めを喰らっているパトリックは置いて、そのまま教室を後にする。

 ノーラについての話題には、できればあまり触れたくはなかった。少なくとも、今の友人との会話の中では。


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