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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
二章  傑物
15/67

2-6

「いやぁ、昨日のカーマ対オルゴはやばかったなぁ。シモンも見に来れば良かったのに」

 アリスとマシューの一戦から一晩を越して翌日、朝一番の朝食の席でその話題について口にしたのは、クライフだった。

「カーマが勝った、ってところまでは何となく聞こえてきたけど」

「ああ、もうなんか憂さ晴らしみたいに滅茶苦茶に攻めまくって、オルゴもかなり凌いではいたんだけど、最後は従器を真っ二つにへし折って強制終了よ」

「それは、たしかにやばいな」

 特殊な複合金属と内部機関で構成されている従器は、構造の複雑さから単純比較は難しいが、多くの場合でその強度は鉄よりも上だ。中の動力部分の故障ならともかく、外殻まで真っ二つにするとなると、相当な威力の打撃を何度も繰り返し受けてもやっとだろう。

「まぁ、言っても元は三位だもんなぁ。くそ、オルゴに賭けるんじゃなかった」

「結局取り消せなかったのか」

「無理無理、やっぱりあいつ、金の為なら友情の一つや二つ平気で売るわ」

「人聞きが悪いな。情報や物ならともかく、友情はそんなに簡単に売るつもりはないぞ」

 呆れ顔で首を振るクライフの背後から、のっそりとパトリックが顔を出した。

「遅かったな、金でも数えて夜更かししてたか?」

「舐めるな、金を数える速さには自信がある」

「本当に数えてたのかよ……」

 朝食のパンを抱えて現れたパトリックは、椅子に座りながらそれを口に運ぶ。

「そうじゃなくて、次の模擬戦の組み合わせを見てたんだよ」

「ああ、もう貼り出されてるのか」

 学年ごとに行われる模擬戦は、一試合ごとに訓練場の掲示にその組み合わせが貼り直される。それに少し遅れて、生徒それぞれにデータ配布もされるのだが、賭けを取り仕切るパトリックとしてはできるだけ早く組み合わせを見ておきたいのだろう。

「じゃあ、俺の次の相手は誰だった?」

「忘れた」

「忘れたってお前……」

「賭けにならないくらいの相手だって事だから、まぁ大丈夫だろ」

 クライフの質問を流し、パトリックが話を進める。

「なぁ、俺とアリスの対戦ってどう思う?」

「どう思うって……一応、賭けにはなるんじゃね?」

「そうじゃなくて。そもそも、俺の試合で賭けはやらないって」

 賭けと金が大好きなパトリックだが、自分の試合を公の賭けの対象にはしない。雑念が入る、と言っていたが、俺にはわからない話だ。

「アリスは昨日もマシューに勝ったみたいだし、油断はしない方がいいんじゃないか?」

 アリスの模擬戦を見に行った事は二人に告げていない上、本人からタオルで口止めも受けているので、パトリックの問いには曖昧な伝聞系で答えてみる。

「だよなぁ、正直、あいつ怖いんだよな」

「えっ、なんで? アリスかわいいじゃん」

「そう言えばクライフはそうだったか」

 前にいわゆる恋話という奴をしてみたところ、クライフは少なくとも外見ではアリスの事を好いているという事が発覚していた。ちなみに、パトリックはトキトー先生のような年上が好きらしい。

「クライフ、アリスの汗とかに興味あるか?」

「えっ、何、汗って言ったか? あるかないかと言えば……」

 そこで声を潜めると、クライフは口を俺の耳元に寄せた。

「ある」

「いや、そこ隠した時点でもう大体わかるからな」

 パトリックの言う事はもっともだが、クライフも俺に伝えた時点で本当はそれほど隠す気はないのだろう。

「……わかった、少し考えさせてくれ」

「何を考えるんだよ?」

 昨日、アリスから受け取ったタオルは、一応ではあるがそのままタオル掛けに放置してある。この問題については、タオルが腐臭を放ち始める前に結論を出そう。

「それで、なんでアリスが怖いんだよ」

 俺が一人考え込んでいる間に、クライフは話を戻していた。

「いや、なんて言うか、アリスって実は結構強いじゃん。それなのに、見た目弱そうにしか見えない辺りがどうも」

「なるほど、たしかに。俺もアリス相手だと手加減しちまいそうだ」

 パトリックの答えを聞いて、クライフが頷く。

「それで、俺の相手は?」

 アリスについての話もいいが、俺としては自分の対戦相手も気に掛かる。

「ああ、シモンの相手か。そっちも結構面白そうだったな」

「面白そうって事は、上位か?」

「そうだな、まぁ賭けが成立するかどうかは微妙なとこではあるけど」

 少しだけもったいぶったかと思いきや、パトリックはすぐに言葉を続けた。

「シモンの次の相手は、ノヴァだよ」

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