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機械仕掛けと護衛の王  作者: 杉下 徹
二章  傑物
13/67

2-4

「おいおいおい、なんで俺とオルゴが倍率ほとんど変わんないんだよ!」

「俺に文句を言われても。倍率は、賭け金から機械的に計算してるだけだから」

 食堂に入るや否や、喰って掛かってきたカーマをパトリックがいなす。

 どうやら、今夜行われる模擬戦の賭けの倍率に文句があるらしい。対戦相手である学年順位五位のオルゴ・ガルベスは、カーマにとってはまだ格下だ。それなのに、両者の倍率がほぼ同じなのが気に入らないという事だが、それは賭けの主催者であるパトリックに言っても仕方のない事だろう。

「わかんねぇよ、つまりどういう事だよ?」

「オルゴに賭けた奴らに文句言え、って事だ」

「なるほどな。おい、オルゴに賭けた奴、出て来い!」

 カーマが食堂中に響き渡る声で呼び掛けるも、当然ながらそれに反応する者はいない。

「いないじゃねぇか! やっぱり、パトリックが悪いんだろ!」

「悪いのはお前の頭だ」

「てめぇ、クライフ、どさくさに紛れて馬鹿にしやがったな!」

 クライフが火に油を注ぎ、話が余計にややこしくなる。

「まぁ、落ち着け。倍率が高い方が、自分に賭けて勝った時に儲かるんだからいいだろ」

「……それもそうだ。シモン、お前、頭良いな」

「それはどうも」

 褒められた気のしない褒め言葉におざなりに返すと、カーマはパトリックに向き直った。

「じゃあ、有り金全部、俺の勝ちに賭ける。いいな、パトリック」

「別にそれはいいけど。お前、この前も有り金全部賭けて、文無しになってなかったか?」

「ああっ、そうだった! ちくしょう、ノヴァの野郎!」

「本当、カーマは滅茶苦茶沸点低いな」

「そもそも、あれは完全にカーマが悪い」

 カーマの相手をするパトリックを横目に、クライフと呆れの視線を交わす。

 先日行われた模擬戦初戦、ノヴァと対戦したカーマは、訓練場の真ん中に仁王立ちしているところを、障害物の影からの不意打ちを喰らって開始数秒で敗北した。

 ノヴァの動きも無駄がなく見事なものではあったが、それ以上にカーマが隙丸出しの無防備を晒していたのが明らかな敗因であり、更にその対戦に有り金の全てを賭けていたカーマはまさに一瞬で無一文になるという、非常に馬鹿らしい結末を迎えていた。迎えた第二戦、オルゴに倍率で並ばれるのも無理はないだろう。

「シモン、金貸してくれ」

「このタイミングで言われて貸すと思うのか」

「いいだろ、勝ったら返すから!」

「それなら自分でお前に賭ける方がマシだ」

 すげなく断ってやると、カーマは首を隣に向けた。

「ちっくしょう、じゃあ、クライフ貸せ!」

「いや、俺なら貸す、ってなるわけねぇだろ」

「クソが! どいつもこいつも薄情者め!」

 捨て台詞を吐くと、カーマは一目散に去っていった。どうやら、これから金を集めるつもりのようだが、おそらく夜の試合までには間に合わないだろう。

「で、どうする? お前らはどっちに賭ける?」

 カーマが消えてすぐに賭けの話に戻す辺りは流石にパトリックだ。

「俺はオルゴに賭けるわ。やっぱり、あれを見た後だとな」

 クライフが財布から小額紙幣を一枚取り出し、パトリックに手渡す。

「俺は……やめとこう。あれはわからない」

「なんだ、随分と慎重だな」

「五分の賭けだと、胴元の取り分だけ俺が損してお前が得するからな」

 カーマの対戦は、どうにも読めない。こういう時、賭けを煽るパトリックに騙されてはいけない。どうやっても賭け金の一部は胴元の懐に入るようにできているのだから。

「たしかに、それもそうか! パトリック、やっぱ今の無し、返せ!」

「残念ながら返金は受け付けておりません」

 友人二人が揉め始めたのを見て、やはり金絡みの問題は面倒だと再確認した。


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