2-1
「くっそ、やっぱり勝てねぇか……」
模擬戦初戦、ヒースとの対戦からまだ三日後、二戦目の相手は学年七位であり、友人でもあるクライフだった。初戦と違い、二戦目の組み合わせにはどうにも法則性が見い出せない。これほど早くに友人と当たったのは、幸運なのか不運なのか。
ともかく、障害物に隠れ、初手で八股に大きく分かれた従器での奇襲を仕掛けてきたクライフは、それを受けきった俺に降参を宣言していた。
「流石に学年一位は伊達じゃねぇよなぁ、ちぇっ」
初戦でヒースを倒した事により、俺の学年順位は一位となっていた。これからも模擬戦の結果によっては順位は結構な頻度で入れ替わるらしいが、それでも模擬戦の開始と同時に一応は順位の前の暫定は取れた形だ。
「褒めてもらえるのはいいんだが、諦めるの早くないか?」
「これ、一発限りの奇襲だから、後が続かねぇの。それに、操作しきれなくてさっきの衝突で壊したっぽいし、このままやっても無駄無駄」
クライフの指さした先、八股の従器からはたしかに黒い煙が故障を主張していた。
従器の扱いは、感覚的には腕や足、指など身体の一部を動かしているのに近い。とは言え、本来存在しないはずの部位が増え、更にそれが人体であり得ないほどの可動域を持つとなると、完璧に操作しきるのは非常に難しい。五指の中でも小指と薬指の動きを切り離すのが一苦労である事を思えば、八股の従器の取り扱いの難度がわかるというものだ。
「もう種もバレちまったし、別の技でも考えっかなぁ」
先日、俺と同日の第四戦目に行われた模擬戦でチャイと対戦したクライフは、最後の交差で先程と同じ八股の一撃を放っていた。その時に、初見殺しの感も強いそれを見ていなければ、俺ももう少し危なかっただろう。
「大技に頼るより、普通にやった方がいいんじゃないか?」
「まぁ、そう言うなって。色々出来た方が面白いだろ」
どこか人事のように笑い飛ばすクライフに、俺も笑いを返す。
「これから飯だろ、一緒に食おうぜ」
「そうだな、これならシャワーを浴びる必要もないし、さっさと行こう」
「嫌味かよ!」
模擬戦が始まってから、俺達のスケジュールは中々に詰まっていて忙しい。クライフは従器を修理に出す必要もあり、急ぐに越した事はない。
「そう言えば、聞いたか? カウス従器工場の担当者が……」
心なしか、クライフの言葉もいつもより早口に聞こえた。