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光の子

ヘリオスは長の家の前でじっと立ちつくしていた。時折扉に目を向けるだけで、指一本微動だにしない。こうしてかなりの時間待ち続け夜になるのだが、扉が開く気配はまだなかった。

 今、長の家では、長年待ちわびた族長の子が生まれようとしていた。天使族の子供はめったに生まれることがなく、外にいても家の中が緊張に包まれているのはよくわかった。

 ヘリオスはその族長の子を護るための守り人、「守護天使」の役目を負っていた。そのため、ここで誕生するのをじっと待っていたのである。

「ヘリオス殿」

 扉が開くのと同時にそう呼びかけられた。ヘリオスが目を向けると、出てきたのは顔面に笑みを浮かべた長の側近の一人だった。

「いかがされましたか?」

「族長様があなたをお呼びするようにと。さあ、早く中に」

 ヘリオスは招かれるままに家の中に足を踏み入れた。ここには毎日のように訪れているが、今日はまるで別の場所のように感じた。無事に生まれたのだろうか。はやる気持ちを抑えながら、一番奥の部屋を目指した。

 奥の部屋の扉をノックするのと同時に向こうから扉が開いた。開けたのは族長本人だった。族長の表情は安堵したように穏やかだったが、少し様子がおかしかった。

「ヘリオス、待たせてすまない。私たちの子は無事に生まれたよ。元気な男の子だ」

 その言葉を聞いてヘリオスは小さく息をついた。時間がかかっていたのでもしやと思ってしまったが、これでようやく安心することができた。

「左様でございますか。この度はご子息のご誕生を心よりお祝い申し上げます」

 ヘリオスの言葉に族長は小さくうなずいた。やはりどことなく落ち着きがない。どうしたのだろうか。そう思っていると、族長が口を開いた。

「さあ、部屋の中に入りなさい。子を見せてあげよう。ただちょっと……驚くかもしれないな」

 ヘリオスは軽く目を瞠ったが、すぐに礼を言ってかごに近づいた。族長の奥方がほほえみながらこちらを見ていたのでお辞儀をする。そしてかごの中をのぞき、大きく息をのんだ。

 双子だった。天使族に双子が生まれるのは、ほとんど奇跡といっていいほど例のないことである。二人は泣き疲れたのかすやすやと眠っていたが、その背中を見てさらに瞠目した。二人とも、天使の力の源である翼が片方ずつしかなかったのだ。一人は右に、もう一人は左に。そしてその翼の下に、まるで足りない翼を補うかのような小さな翼が生えていた。

「どうだ、ヘリオス。驚いただろう。我々もそれはそれは驚いた」

 ヘリオスは無言でうなずくことしかできなかった。一体なにを口にすればよいのかわからなかったのだ。何も口にしないヘリオスを見て、長はふっとほほえんだ。

「改めてお前に尋ねよう。少々変わっているかもしれないが、これが私の子供たちだ。お前に守護天使を任せたいという気持ちは変わらない。引き受けてくれるか?」

 それは命令ではなく問いだった。しかしヘリオスは片膝をつき両手をあわせて翼をたたみ、忠誠の礼をとった。

「身命を賭して御子息たちの守護を務めさせて頂くことを誓います」

 ヘリオスは心の底からそう誓いの言葉を述べた。その様子を見て長は満足げにうなずいた。そして立ち上がるようにうながす。

「おまえのその言葉ほど頼りになるものはない。ありがとう。もう下がってよいぞ」

「御意」

 ヘリオスはもう一度深く頭を下げると、外へ出ようとした。しかし、部屋の隅の方で静かに様子を見守っていた長老に呼び止められた。

「ヘリオス。この子たちを大切に護りなさい。この子たちとお前は、いずれこの長すぎた戦争を終わらせるだろう。この地に住む祖龍の力を借りてな」

 長老のその言葉にその場にいた全員が息をのんだ。

「長老殿、一体それはどういうことか?」

 長が呆然としながらそう尋ねた。長老は静かに首を横に振る。

「言葉の通りじゃ。わしにはこの子たちの未来が見えただけ。どうやって止めるのかまではわからない。それはこの子たち次第だろう」

 そう言って今度はヘリオスの方に目を向けた。

「この子たちは生まれながらにして光の魔力を持つ、光の子じゃ。しっかりと護りなさい。そうすればヘリオス、お前のことも救ってくれるだろう」

 ヘリオスは目を瞠りながら籠の中で眠る、ほんの小さな赤子を見つめた。この小さな体に、どんな数奇な運命を宿らせているのだろうか。どんなことがあろうとも、自分はいつも共にあり、必ず護りとおしてみせると改めて心の中で誓った。

「必ずお護り致します」

 ヘリオスは再び頭を下げると、部屋を後にした。

 空には大きな二つの満月が煌々と輝いていた。

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