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ラウンド3(南斗晶)

(南斗晶)


日曜日に、健介君と山へハイキングに行く約束をしました。



そう、デートです。生まれて初めての、男の子とのデートです!



もう、毎晩ドキドキして眠れませんでした。気持ちを落ちつけるために、部屋で受け身の練習をしてたら、お母さんに怒られちゃいました。



前日になりました。その日は自宅の隣にある会場で、試合がありました。



試合中も、明日のデートのことで頭がいっぱいで、ウキウキしすぎて力が入り過ぎてしまい、序盤のヘッドロックで対戦相手を気絶させてしまいました。試合後、お父さんに怒られちゃいました。

でも全然気になりませんでした。



試合の後、着替えて控え室から出ると、同期のレスラーに話しかけられました。

「おいおい、何だよ今日の試合は?しょっぱいファイトしやがって」



同い年で練習生の、田山聡です。

幼い頃からの腐れ縁で、何かあるたびに私にちょっかいをかけてくる、嫌なヤツです。



「うるさいわね」

「それにしても、なんか今日のおまえ、ずっと機嫌がよかったな。早朝練習の時、鼻唄歌ってたろ?」

「何見てんのよ。気持ち悪い」



私は早足でその場を去ろうとしました。すると、田山も早足で追ってきました。

「何よ?ついてこないでよ」

「未来のエースにそんな口のききかたはねえだろ」

「そんな減らず口はヤングジャガーを卒業してからにしてちょうだい」



ヤングジャガーというのは、若手レスラーにつけられる呼称です。

田山のバカは、自分のルックスがちょっと格好いいからって、調子に乗っているのです。



「なあ、今日のおまえ、なんでそんなに、嬉しそうなんだ?……まさか男でもできたか?」

私は立ち止まって田山をにらみつけました。

「…………」

「なーんてな、そんなわきゃねえか。おまえみたいな筋肉女に彼氏なんかできるわけが」

「そのまさかよ」

ふふんと笑いながら言ってやりました。



「……え?」

田山は硬直しました。

「私、いまある男の子とお付き合いしてるの。あんたみたいにチャラチャラとしてない、しっかりとしたひとよ」

「……嘘だろ?」

「嘘じゃないわよ。明日デートなの。だから準備で忙しいのよ。あんたの相手をしてるヒマはないの?……ちょっと聞いてんの?」

田山の顔を見て、私は眉をひそめました。



田山は、何かひどくショックを受けたかのような顔をしていました。



しばらく、沈黙が流れました。



「やめとけよ」

田山がつぶやきました。



「え?」

「おまえなんかが、まともに恋愛できるわけがねえ。絶対無理だ。さっさと別れちまったほうがいい」



さすがに、カチンときました。



「なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないのよ!?あんたには関係ないでしょう!!」

「あの癖はどうするんだよ?」田山は冷静に言い返しました。「おまえの、緊張したら、プロレス技を出す癖。あれ、どうすんだよ?相手をケガさせちまうだろ?」

「大丈夫よ。彼は、健介君は空手部のエースなんだから、私がプロレス技を出しちゃっても、うまくよけてくれるわ」



「でも、もし当たったら、どうすんだ?」



田山の言葉に、私は口ごもりました。



「それは……」

「空手やってるっつってもよ。格闘家ってのは、よける練習や防御する練習はしていても、俺達プロレスラーみたいに技を受ける練習はしてねえだろ?そんなヤツが、万が一おまえの技をモロに喰らったら、どうなると思う?下手すりゃ…………………死ぬぞ」

「……うるさい」

「悪いことはいわねえ。やめとけって」

「うるさい!うるさいうるさいうるさい!あんたなんかに!あんたなんかに何が分かるのよ!わたしだって分かってるわよ!自分が危ないって!恋愛したら危険だって分かってるわよ!でも、好きになっちゃったんだもん……。わたしだって……普通の女の子みたいに……、好きなひとと手をつないだりとか……一緒にいろんな所に遊びに行ったりとか……したかったんだもん。……わたしだって……わたしだって……」



気が付くと、私は泣き出していました。



「ごめん」

田山はうつむいて謝りました。

私は田山に背を向けて走り出しました。



田山のバカ!バカバカバカバカバカ!

せっかくのワクワクしていた気持ちが、あのノータリンのせいで台無しです。

絶対!絶対明日のデートは楽しいものにしてやるんだから!










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