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ファイナルラウンド(代々木健介)

(代々木健介)


「うおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」



俺は、吠えた。



使える。使えるぞ。



父に教わった代々木流空手最終奥義。



愛するひとへの想い。その強い気持ちを闘気に変え、さらにその闘気を具現化して相手にぶつける必殺技だ。



南斗さんの想いが闘気となり、その闘気がいま炎となって俺の拳を包んでいる。



俺は、構え、思いきり踏み込んだ。



折れた足で強く踏み込んだ。



ぐしゃあと骨が砕ける。リングが揺れる。しかしその激痛も、今の俺は、力に変えられる。



俺は、渾身の力をこめて叫んだ。



「はああああああああっ!!喰らえぇぇぇっ!!代々木流空手最終奥義!!超波動炎龍拳っ!!!!」



火山の噴火のような轟音と共に、俺の拳から、巨大な炎の龍が飛び出した。



その衝撃で、俺の腕の骨が砕けた。体が後ろに吹き飛んだ。



炎の龍は、凄まじい雄叫びをあげながら、田山に向かって舞い、噛みついた。









大爆発が起きた。







衝撃波で、審判がこけた。観客の数人が転がった。



田山の体が高くぶっ飛んだ。そして、天井の照明にがしゃんとぶつかると、全身黒焦げの姿でリングの上に落下した。そしてそのまま動かなくなった。






勝った。






俺は、がくんと膝をついた。

荒く息継ぎをし、必死で酸素を吸った。もう動けない。筋肉が痺れて固まっている。右の拳が内出血を起こして腫れている。全身のあちこちの骨に、ヒビが入っているのが分かる。汗がとめどなく溢れ、まるで、水の中からあがったかのように、空手着がぐっしょりと濡れている。



しばらく、俺は、膝をついたままの姿勢で呼吸を続けるのに必死だった。

だから、倒れた田山への審判のカウントが無いことに気がつかなかった。












誰かが、俺の前に立った。














うつむいている俺の視界に、黒焦げの両足が見えた。















……嘘だろう?














俺は、顔をあげた。
































田山が、立っていた。

全身を火傷した姿で、仁王立ちになり、こちらを見下ろしていた。




「そんな……」



はっきりと、心が折れるのを感じた。



馬鹿な。プロレスラーってのは化け物か?



もう、戦えない。



俺は絶望した。



そのとき、田山が口を開いた。

「俺の……、負けだ……」



「何?」

いぶかしげな顔をする俺に向かって、田山は切れ切れに呟いた。



「俺は、……もうすぐぶっ倒れる。おまえの……勝ちだ。…………その前に、おまえにふたつ……言っておきたいことがある……」



「……なんだ?」



「俺は、……おまえの空手に敗れた……。しかし、それは……俺が弱かっただけのことだ……。決して……プロレスが空手に負けたわけじゃない……。分かるな?」



「ああ、空手がプロレスより上だなんてことは、言わねえよ」



「……よし。それと、……もうひとつ……」



田山の体が、前のめりに倒れた。俺はあわててそれを支えた。



「大丈夫か?」



「……ああ、すまねえな。…………それと、もうひとつ」



「何だ?」



少し沈黙してから、田山は言った。



「……晶を、頼む」



「え?」



「…………晶を、……泣かせないでやってくれ……。バカだけど……いい女なんだ……。…………頼む」



俺は、田山の目を見た。



そして、分かった。



激しく戦った者同士だからこそ、通じるものがあった。



こいつも、南斗さんのことを……。




「分かった。まかせておけ」



俺は力強く言った。



「…………ありがとよ」



そう言い残して、田山は目をつぶり、静かに気を失った。











試合時間三十二分。






俺は勝った。







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