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ラウンド16(南斗晶)

(南斗晶)


試合が再開されました。



「なんで立った?」

田山が、健介君をにらみつけながら聞きます。



健介君は、ぎこちなく笑いながら答えます。

「決まってるだろ?戦うためさ」



「ふざけるなっ!」田山が吠えます。「変な見栄張ってんじゃねえぞ!素直にギブアップしろ!骨折しているヤツ相手に、戦えるか!おれはそんな悪趣味じゃない!」

「怖いのか?」

健介君は挑発的な目をして聞きました。その顔は、汗でびっしょりです。

「なんだと?」

田山が眉間にしわをよせます。

「足の骨の折れた俺と戦うのが怖いのか?情けねえ。プロレスも大したことねえな」

「…………」

田山の表情が、すう、と変わりました。静かな目付きになっていきます。



「おうおうおうっ!田山!安い挑発に乗るなよ!」

私の横で、アトミック南斗が大声をあげます。

田山は、ため息をつきました。

「社長の言う通りだ。はは、そんな見え見えの挑発に俺がのるとでも思ったか?」



どごっ



言い終わった瞬間、田山がドロップキックを放ちました。



会場がどよめきます。



健介君は、キックを胸に喰らい、後ろに飛ばされましたが、ロープをつかんで倒れるのを防ぎました。



「のったよ」田山は両手を広げながら言いました。「見え見えの挑発だってことは、分かってるさ。でもプロレスへの侮辱は許せねえ。足をもう一本折る。覚悟しろよ」



「……一撃だ」

ふらつきながら、健介君が答えました。



「あ?いまなんて言った?」




「この一撃に、全てをかける」

そう言って、健介君は、握った拳を前に掲げました。





「わけのわかんねえこと言ってんじゃ……」

田山は、タックルで飛びかかりました。ところが、急に何かに気付いた表情になると、足を止め、素早く下がりました。



「?」

わたしは突然の田山の後退にとまどいました。

田山は、何か得体の知れないものを見たかのような顔をしていました。



「なんだあれは?」

アトミック南斗が、つぶやきました。わたしが父の視線をたどろうとした時です。ふと、後ろの観客の声が耳に入りました。



「おい、なんか暑くねえか?」



そこで、私は異変に気がつきました。

いつのまにか、会場の温度が上がっているのです。

さっきまでクーラーが効いていて涼しかったはずの会場の空気が、まるて、真夏の太陽に照らされているかのように暑くなっています。



クーラーが壊れたのかしら?



額の汗をふきながら、リングに目を戻して、私は絶句しました。

リング上で静かに佇む健介君の、まわりの空気が、まるで蜃気楼のように、ゆらめき歪んでいるのです。



そして、その拳。



私は目を疑いました。



健介君の右拳が、まるで高熱を持ったガラスのように、赤く輝いているのです。

熱を放っているのは、その拳でした。

健介君の拳が放つ謎の光。

その光が生み出す大量の熱が、信じられれないことに、クーラーで冷えていた会場の温度を急上昇させたのです。



「何がどうなってんだ?」

田山は、大きく距離をとってガードの構えをとりました。

健介君は、もう一度つぶやきました。

「……この一撃に、全てをかける」



ぼうっ



健介君の拳が、ひとりでに燃えだしました。右手が炎に包まれます。観客全員が、息を呑みました。

「うおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」

健介君が吠えました。




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