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ラウンド13(南斗晶)
(南斗晶)
ごきっ
観客には聞こえませんでした。
リングサイドにいた者の耳にだけ、その鈍い音が届きました。
健介君の足の骨が折られる音でした。
わたしは思わず耳をふさいで、目をつぶっていました。
アトミック南斗は、無言でリングを見つめていました。
異様な雰囲気を感じたのが、観客の歓声が、だんだんとざわめきに変わっていきました。
これも、プロレスの一部です。ガチンコ、シュート、呼び方は様々ですが、強いレスラーは、実戦で相手を倒せる技術を持ち、その上でプロレスをします。そういうレスラーの試合は、独特な緊張感を生み出します。
田山は、そういうレスラーでした。
やがて、健介君の、うめき声が、聞こえてきました。




