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ラウンド12(代々木健介)

(代々木健介)


勝ったと思った。



確かな手応えがあった。



田山の攻撃は、何度も俺の肌を打っていたが、狙いやタイミングが甘く、大したダメージは残さなかった。逆に俺の攻撃は、何発もいいのが、入った。かなり効いているはずだ。



実際、田山の目の色が微かに揺らいでいる。動きの速さも落ちている。

今までの、空手の試合で何度も体験してきた、勝ちのパターンにうまく持ち込んだようだった。

もうすぐ、ダメージによる隙が生まれるはずだ。

そこに、とどめの一撃を加えれば、試合は終わる。



「…………」



少し、つまらなかった。

プロレスとの戦いを期待していたのに、結局、付け焼き刃で覚えたであろう空手の相手をすることになってしまった。

なぜ田山聡は、このような愚かな選択をしたのか。



田山の腕のガードが微かにさがった。

俺はその隙を見逃さなかった。

「しゃっ」

力をこめた前蹴りを、田山の腹にぶちこんだ。

腹筋に深くめりこむ感触を足裏に感じた。

田山は、ぐっとうめいくと、腹を抑えて膝をついた。

内臓に重い衝撃を感じているはずだ。

もう、立ち上がれまい。

「とどめだ」

俺は、田山の顔面に最後の下段蹴りを当てようと、かまえた。



その時だ。



「フランケンシュタイナーだ」



突然、田山が、意味の分からないことを呟いた。

「何を言っている?」

「いまからおまえに喰らわす技だよ。フランケンシュタイナーっていうんだ。覚えとけ」



声に、疲れが無かった。



「なんだと……」

おれがとまどった瞬間、



田山が跳躍した。





俺の頭上をも越える、高いジャンプだった。



馬鹿な。田山の体はもうボロボロなはず。なんでこんな動きが。

おれは混乱して動けなくなった。こちらに迫ってくる田山を呆然と見上げていた。

飛んできた田山は、両足で、おれの頭をがっちりと挟みこんだ。

分厚い筋肉に包まれた太股が、顔面を圧迫してくる。



なんだこれは?なんなんだ?



自分が今、何をされようとしているのかが分からない。息が苦しい。困惑と恐怖が襲ってくる。



そして、田山は、俺を投げた。

足で投げたのだ。肩車を逆にしたかのような形で、俺の肩の上に乗っていた田山は、その位置から、宙返りのような動きを見せた。そして、その勢いを利用して、足に挟んだ俺を投げ飛ばしたのだ。



足で背負い投げをされたかのような奇妙な感覚だった。



ともかく、俺は投げ飛ばされた。

とっさに受け身をとろうとしたのだが、足で投げられるなんて初めてだったため、どう受け身をとるのが正解か分からず





ごつっ





俺は、マットの上に、頭部を強打した。



脳が揺れた。



ふらつきながら、どうにかゆっくりと立ち上がる。



田山がいない。



どこに行った?



「ミサイルキックだ」



後ろから声がした。



振り向いた。



両足の裏が、眼前に迫ってきていた。



位置が高い。



田山は、リングコーナーの柱に上がり、そこからジャンプしてドロップキックを放ったのだ。



喰らった。



吹っ飛ばされた。



マットに後頭部をまた強打し、さらに脳が揺れた。



ぐわんぐわんと頭痛が反響する。



視界がぐにゃぐにゃに歪んでいた。



どちらが上で、どちらが下か。



やばい。



とりあえず距離をとらねば。



しかし、どっちへ向かえばいいのか?



おれはリング上を腹ばいになって這った。



すると、尻になにか重いものが落ちてきた。



田山だ。



田山が、俺の尻の上に乗ったのだ。



足を掴まれたのがわかった。



田山は、自分の足を俺の足に、奇妙な形にからませた。



そして、呟いた。







「最後だ。…………スコーピオン・デス・ロック」










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