ラウンド1(南斗晶)
(南斗晶)
好きなひとができました。
私の名前は南斗晶。十六歳の女子高生です。
いま、私は恋をしています。
相手は、クラスメイトの男子の代々木健介君。
空手部のエースで、引き締まった体に、ストイックな顔つきをした、かっこいい男の子です。
一目惚れでした。
私は告白しようと思って、放課後、校舎裏に、健介君を呼び出しました。一目惚れしてからすぐに行動に出ました。片想いの期間を作ると、ドキドキしすぎて、私のある悪い癖が出てしまうからです。
放課後になりました。
校舎裏の桜の木の下で、私は健介君を待ちました。
健介君は、すぐに来てくれました。
「ごめん、待たせちゃったかな?」
「んーん、わたしもいま来たばかりだから」
声が、震えてしまいます。
恥ずかしくて、顔をあげることができません。
頬が、熱くなっているのが、自分でもよく分かります。
「それで、南斗さん、話って何かな?」
「あ……、うん」
私は、大きく深呼吸をしました。そして意を決して、ゆっくりと顔をあげました。
健介君と、目があっちゃいました。緊張が高まりました。
その瞬間、全身がかっと燃えるように熱くなりました。血が一気に頭に上ります。
ああっ!ダメ!いまはダメなの!
わたしは、胸の底から沸きあがる衝動を必死で押さえようとしました。
落ち着かなきゃ!いまだけは、いまだけは出しちゃダメ!あれを出したら、健介君に嫌われちゃう!
しかし、私の弱い精神は、体に深く染みついた悪い癖を、止めることができませんでした。
「健介!死ねやコラァァァッ!!」
私は思い切りそう叫ぶと、健介君の顔面に、勢いよくドロップキックを喰らわせていました。
……そう。私は女子高生プロレスラー。
赤ん坊の頃から、プロレスの厳しい英才教育を受けた私の体は、極度に緊張すると、周囲の人間にプロレス技をくりだしてしまうという悪癖を抱えているのです。