拭いきれない後悔
「ん、完成」
後はデバックしてみて、かな?
あの日、何も悪くなかったあの子がいなくなってから、ずっと心残りだった。
本当に悪かったのはあの子じゃない。
だってあの子はいつも妹の不始末を謝ってばかりで、逆にあの子が不憫だからと妹が成すことに皆が反応を示さなくなっていった。
例えそれが嫌悪の感情であろうとも反応が欲しかったのか、お前らだけ隔離されろと思うようなことを皆の前の前で、目立つ場所で、悪目立ちするように鬱陶しいやり取りを。
確かに彼らは人気があった。
見目が良かった。
家もそれなりにお金持ちだった。
家柄がよいのもいた。
でもだからこそ、彼らと関わりのある人たちが彼らの堕落ぶりに激怒した。
一生懸命に妹の不始末を謝り、尻ぬぐいしていたあの子を保護し手出しできないようにした。
既に限界だったあの子は、保護されたことにより虚脱状態になり、しばらく入院が必要だったそうだ。
学校からあの子がいなくなり、あの子が妹を守る姿を見なくなってホッとした。
そして一週間としないうちに、彼らは家族から見放された。
まだ子供だ。
だからこそ許される範疇というモノは確かにある。
有るけれど彼らは自分たちがやった後始末を自分たちで付けることをしない所か、他者に押しつけたあげく虐げ続けたのだ。
正論は耳にいたい。
正しいことは、悪いことをしているときには聞きたくない。
特にそれが自分にとって不都合であれば。
彼らは良い家の子供達だった。
だからこそ、彼らの素行は親に影響を与える。
大事になる前に何とかあの子が回避し続けていたけれど、正直限界だった。
だから彼らに近しい者たちは、自分たちの声すらもう聞こえなくなっていた彼らに見切りを付け、親に出て貰ったのだ。
彼らの親たちは話し合った。
どうするのが一番傷が少ないかと。
しかし一番傷が少ない方法は、一番の被害者に全てを押しつけるという方法だった。
だからこそあの子は保護され、しかる後表向きだけあの子に罪をかぶせて彼らは家の監視下に置かれた。
恋に現をぬかしすぎて全て失ったのだ。
家の道具として。
期待されていたハズの道から辞退させられて。
彼らが周りからいなくなり、妹は孤立無援となった。
友達などいなかったのだ。
いや、あの子が頭を下げたからこそ付き合ってくれていた存在がいただけで、あの子がいなくなれば義理など無いのだ。
あの子が壊れる寸前まで追い詰められていたことを理解しているからこそ、余計に友人などでいられるはずがなかった。
必要事項は話してくれる。
でもおしゃべりはしてくれない。
今までは彼らが融通を利かせてくれたことも、誰も手伝ってくれないし、都合してくれない。
そこにいることは認識されていても、再び引っかき回されるのではないかと監視する視線がつきまとうだけだった。
でも妹は気がつかない。
あの子がいないのが、やってくれないのが悪いのだと漏らす。
そして彼らのことは思い返さない。
なんて薄情なのだろう。
私たちは近づきたくないと思い、事実卒業するまで距離を保ったままだった。
その後、風の噂で大学でも似たような状況を作り、今度は守ってくれたあの子もいない、迷惑をかけた相手に謝ってくれていたあの子がいないからこそ早々に刺されたと聞いた。
男達は彼女を庇うでも守でもなく、刺されている妹を見捨てたと。
聞いたときあり得るだろうなと思った。
娘がやっているゲームを見て、あの時の状況に似ているなと思った。
興味を持って、あの頃を思い出しながら話を書き上げてみた。
高校の頃の友人に話を持ちかけ、あの頃の思い出したくないだろう記憶を掘り返して貰った。
集まった話を纏めて、娘を巻き込んで一つのシナリオに纏めてみた。
手伝ってくれた友人にできあがったシナリオを読んで貰った。
怒った子もいれば笑った子もいた。
こういう形にすると、酷く馬鹿馬鹿しいことだったんだと泣いた子もいた。
私は、どうだったのだろう。
妹の視点の普通の乙女ゲームらしいシナリオ。
予想なんかが一杯はいるけれど、あの子視点のホラーじみたシナリオ。
あの子の言葉はどれも正しくて、あんな妹を思いやったモノで、思い返すと苦しくなる。
妹の、ヒロインの立場から見れば邪魔をしているとしか言いようがないのに、他のモブとされる人から見ると自分たちが言いたかったことでしかないのだ。
ゲーム、なのだから基本的にはハッピーエンドだ。
でもそれは本当に幸せなのだろうか?
保護されたあの子。
何度か保護された先を聞いたけれど、教えてもらえなかった。
幸せに、あの妹と離れることが出来たのだから、幸せになっていたらいいなと思う。
もう三十年近く前のこと。
私も恋をして、喧嘩して、就職して、結婚して子供を産んだ。
子供達を育てながら育てられて、時々あの子を思い出す。
これは単なる私の自己満足。
「お母さん出来たの?」
「えぇ、一応ね。アンタには色々迷惑かけたわね」
「別にいーよ。でも同人ゲームにしてはクオリティ高すぎない?」
「そうかしら?」
「うん。まぁ同人から普通の会社になる所もあるしね。でもお母さんこれ以降は作るつもり無いんでしょう?」
「そうね、これは私の後悔だから。あの時どうにか出来なかったのだろうかって」
「だったら良いんじゃないかな、同人のままで。イラスト担当してくれたこのところで委託して貰えるようにするね」
「手伝えること有ったら言ってね」
「あはは、またご飯差し入れで良いんじゃないカナー?」
「あんた達もいい年なんだから……でも、そうね、あの子みたいな状況に巻き込まれていないし、好きなことやれているのだからこれはこれで仕方がないのかも知れないわね」
「なんか酷いこと言われてるー」
「酷くないわ、あんたが幸せそうだからお母さんは嬉しいって事」
「え、えへへへへ?」
あの頃の私よりも年上になっている娘。
でもいくつになっても娘は娘、可愛いものだ。
それにこの子は、私の後悔を形にすることに手を貸してくれた。
馬鹿にしないで、話を聞いてくれた。
ずっと、言葉にして表に出せなかったことを受け止めてくれた。
そしてこの子の友達も。
世間一般では特殊な趣味嗜好なのかも知れないけれど、それでも皆良い子だ。
趣味に全力過ぎるきらいはあるけれど。
「ありがとう」
貴方と親子になれたことは、きっと私にとっての幸せ。
ゲームという形にした人の話。
元同級生。
薄れていく記憶が悔しくて、忘れて良いのか悩んで、ずっとずっと後悔し続けた姉の友人の一人。
娘がやっているゲームを見て妙な既視感を覚え、かすれている記憶を掘り返して文章に起こし、友人に手伝って貰い記憶の補完を行った。
正しいかどうかは判らなくとも、それでも表沙汰にされなかった、もみ消された出来事を時間が経過したからこそ形に出来た人、と言う立ち位置です。
「文系少年は少女だった、らしい」を書き上げたら降ってきたエピソードでした。