燐(リン)
「失礼しま……あれ? 先に来てたんですか。」
「よう、ひな! なんだ、またケーキか。よく太らねえな。」
「大門さんにはデリカシーってものがないんですか?」
「デリカシー? なんだ? また新作のケーキできたのか?」
「もう! からかわないでください! はい、これ近くにできた新しいアップルパイ。」
「アップルパイ? 私も食べたい!」
「あはは……。またその格好してるんですかサヤさん。」
完全に俺、空気である。
「あ、あのう……。」
「おうボウズ、なんだ?」
「いや、用があったんじゃないですか?」
「ああ、そうだった。ほら、バカもいい加減変身解け。」
「バカじゃないですよ。」
佐藤さんは宙に浮かしたコンパクトを開いて「ラミルミラミルミラララララ~」と言って変身を解く。
そして二人とも影のことについて謝罪した。
「影を連れてきてしまってごめんなさい。魔法爆発で空間に裂け目ができてしまったとはいえ、対応が遅れたのはこちらの不手際です。3日に一度、あなたの世界にメッセージを届けられる特別な措置を取ってるから、あなたの世界に送りたいものがあったらぜひ言ってね。」
「あっ、それはハヤトさんから聞きました。ありがとうございます。」
「そっか、一番先に来たのはハヤトだったもんね。あ、あのさ、もし嫌じゃなかったら……その、触らせてもらっていいかな? あいたっ!」
「怪我人になんてこと聞くんだバカ。」
「あはは……。頭だけならいいですよ。」
この世界も俺のいた世界と変わらない。科学的なものと魔法的なものとが混じってるってだけで。
動物用に、座面の広い車椅子が用意されていて、手足が汚れないように移動できる。
車椅子に乗るのはなんだか恥ずかしかったが、同じように車椅子に座ってる人もいたのでほんのちょっぴりだけど安心した。
外に出ると、ビルの並ぶ近代的な街が広がっていた。ファンタジーの世界というより並行世界的な印象を受ける。
でも、ここには俺の大切な人はいない。俺の住むべき世界はやはり……。
夕日に照らされ、この世界の音楽を聴きながら、譜面にインスピレーションを落としていく。
時間がもう少しだけゆっくりと流れてくれればいいのに。
世界が刻む命の鼓動が自分を焦らす。人生の一生を左右する問題にやはり答えは出ない。
リンが送ってきたビデオメッセージに愛しさを感じる。
「この桜綺麗ね! わたし、宝龍燐! あなたの名前は?」
「目が青いのね。あなたのお父さんとソックリ。」
「ねえねえ、あなたオオカミになれるんでしょ? 見せて!」
明るくて活発な女の子。髪と目の色は赤くて、綺麗な顔立ちの、日本人特有の丸みを帯びた顔がかわいい。肌は白くて、手足が細い。ドレスを着ていてまるでお人形のようだ。
彼女と過ごすようになってある日、俺は気がつくと、彼女にいままでの出来事を吐き出していた。幸せも不幸もなにもかも。母さんや父さんとの思い出、コウジとの思い出、母さんがヴァンパイアに襲われて植物状態になった時の辛さも、コウジが死んだときの辛さも。
彼女は黙って相槌を打ち続けて聞いてくれた。
そんな事があっても、彼女はいままでと同じように俺に接してくれた。
「ショウ、おみやげたくさん買ってきてね! それから……」
画面の中の彼女の笑顔に、思わず自分も笑みをこぼす。




