虚空
おお!人の姿でいても疲れない!
おわ!でっかい犬だなあ!どうしたんだ?……もしかして俺?
たしかイタリアオオカミだっけ?右の色が違うのはあの時からだったなあ……。
しかしオオカミはやっぱり怖いなあ(笑)。
でもかわいいなあ、よしよし。あはは、くすぐったいって。
一面青の世界。俺は水面の上に立っているのか。雲が穏やかに流れている。
目の前に人が立ってる。俺か。しかしなんで全裸なんだ……。まあ周りに誰もいないからいいか。
俺ってこんなに老けてたっけ。ずいぶんとさえない顔してるな。ストレートの髪質に黒髪のショートヘア。純日本人顔は母さんに似てる。目の色と背の高さは父さん譲りだ。
自分てこんなに傷跡あったんだ。まあ、いろいろあったからなあ……。
俺は俺に飛び込んだ。人の俺は俺を撫でてくれる。俺は人の俺の顔をなめる。
俺は人の俺を押し倒して、匂いを嗅ぐ。人の俺は笑ってそれを受け入れてくれる。
あったかい。どうしてこんなに優しい気持ちになれるのだろうか。ずっとこうして触れ合っていたい。
あたたかい、強い風が流れる。永遠に同じ時をすごせる。そんな風に感じた。
突然、青い世界を闇が覆う。黒い水面から影が現れる。
人の俺は俺を抱きしめて言った。
「なにがあっても一緒だ。」
俺は人の俺と交わり、溶け合い一つになる。
狼男になった俺は気を練り、ランスを具現化して影の群れへと飛び込む――
大量のヴァンパイアが俺とコウジの周りを囲む。
「さあ、血の晩餐の始まりだ。」
寺田は笑いながら言った――
コウジ、コウジ、死んじゃだめだ
灰色の雲が覆う虚空を見上げる。乾いた空気がやけに澄み切っている。空はどこまでも続いていて、俺の心を透かしている。穴の開いた胸に空気が淀む。頭は鈍く霞んでいた。心はもう何も映せなかった。




