酒
師匠の墓参りに行くと、アキラが師匠の墓の前に立っていた。
「おう、ショーじゃねえか!もう怪我大丈夫なのか?」
「おお、アキラ!怪我は、治ったよ。」
「父ちゃん、ショーが来たよ。」
二人で大神シンヤの墓の前で手を合わせる。
「俺ン家寄ってけよ。」
「うん。」
「じゃあちょっと借りる。」
いつものように、今はもう誰も乗らないバイクのサイドカーに乗り、そこで時間を忘れてぼーっとする。
「師匠まだかな……」
もう二度と来るはずのない人を待つのは犬の性か。
「山行ってまたサバイバルしたいなあ……」
言葉にならないため息が空中に漂い消えていく。
夕日がバイクに濃い影を落とす。
「おーい!ショー!今夜ここに泊まってけってばあちゃんが~!」
アキラも俺と同じ狼男だった。
ただ俺と違うのは純日本産のオオカミだということ。
「この姿でいると掃除が大変なんだよなあ」
茶色の夏毛になったオオカミのアキラが不満げに後ろ足で首を掻く。
「わかるわかる。気づいたら家中が毛だらけで……」
俺はあくびをして布団に潜り込む。
それから、リュックから形見の銀色の欠けた竜のうろこと、空のスキットルを取り出す。
「いつも墓参りに来てくれてありがとう。」とアキラが俺の取り出したものを見ながらイメージで伝えてくる。
「俺の親父きっと喜んでるよ。」
「また来るよ。」
「じゃあその時は山で川釣りしよう。それから……」
その日は不思議な夢を見た。銀色の光に導かれて歩いて行くと、目の前に師匠が現れて頭にスキットルの中身をかけられた。
「また来い。」と言って師匠はどんどん遠くへ行く。
泣いてなんかいない。ただ酒が顔にかかっただけだ。
「また来る。」酒の匂いに顔をしかめて俺はそう言った。




