病院
「お母さん、花買って来たよ。」
そう言って俺はガラスの透明な花瓶に、色の違う数本の花を挿す。
少し大きめの、背もたれ無しの椅子に座り、人の姿を解く。
昨日換えた、CDの入ったラジカセのスイッチを入れて音楽を部屋に流す。
花も音楽も、母さんがいつも大切にしなさいと言っていた。
「今日は、俺が昨日作った曲をバンドのみんなが演奏したんだ。」
「ユウはやっぱり歌がうまいよ。ユウのお父さんみたいに有名な歌手になれるんじゃないかな。」
「俺も歌いたいけど、こんな姿だし……。」
「あっ、でも大丈夫だよ。俺が作った曲をバンドのみんなが演奏してくれるから。」
「今度ストリートライブやるんだ。楽しみだなあ。」
バイオリンの音色が、夕日に照らされた部屋に悲しく響く。
母さんからの返事はない。
うなだれて、そうして下を見つめている間に半分に欠けた月が昇ってきた。
自分が遠吠えしたら母さんは起きてくれるかもしれない。
月を見上げて、そんな他愛もない空想にふける。
一週間に一回、学校が休みの日は母さんの隣に簡易ベッドを置いて、そこで眠る。
ひょっとしたら母さんが起きるかもしれないし、一人で家にいると不安になるのだ。




