江迎三葉
他作品と内容が似ている表現がありましたが、作者様に確認をとりOKをもらえたので投稿します。
作者様、ありがとうございます。
バスに乗り、江迎の家に着く。
「ここが春日野さんのマンションですか?」
狗神がマンションを見上げる。
マンションは一階にコンビニがあり、二階から八階が住居になっている。
一階につき十部屋あり、僕の家は最上階の810号室だ。
江迎は二つ横の808号室らしい。
榎本がチャイムを押す。
ピンポーン。
反応はない。
「居ないみたいね」
榎本がどうする? と聞く。
「帰ってくるまで、待つしかありませんね」
狗神の発言で僕らは僕の家で江迎が帰ってくるのを待つことになった。
江迎のドアにはメモを書いて置いた。
江迎が帰ったら電話してもらうようにだ。
「それにしても」
花咲が僕の家を見渡す。
「何もない部屋だね」
僕の家は何もない。
あるのは最低限度の家具とパソコンだけだ。
「シンプルイズベストだよ」
僕は壁に掛けられている時計を見た。
「四時半か……いつまで待つ?」
みんなに聞く。
狗神は、
「六時までなら待ちます」
榎本は、
「五時半まで」
花咲は、
「僕は一人暮らしだからいつまでも待つよ」
一人、気持ち悪い返答をしたやつがいるが、無視する。
「榎本。なんで花咲を誘ったんだ?」
榎本はだって、と花咲が放課後、教師と僕の話のことを榎本たちに教えたことを言った。
「ねぇ。トランプある?」
花咲がニコニコ笑いながら、手を出してくる。
「な……」
無いよ。と言おうとして、ここに引っ越した時に管理人さんに貰ったトランプを思い出す。
「……ある」
僕はダイニングルームにみんなを連れて来た。
「はい」
僕は自分の部屋からトランプを持ってくると、机に広げた。
「神経衰弱をしよう」
これは、記憶力が試されるゲームだ。
ジョーカーは既に抜いてある。
記憶力なら花咲と互角だろう。
いや、それ以上かもしれない。
だから、このゲームなら花咲と互角の戦いが出来る。
「じゃあ、始めるよ」
一時間後。
「また、狗神と花咲の一騎討ちか……」
僕と榎本に大差をつけて二人は戦っている。
逆転勝ちは、不可能だ。
今までに神経衰弱を四回やったが、花咲と狗神の二勝二敗で終わっている。
僕が着実に二枚を暗記するのに対して、花咲は百パーセント二枚引いたら揃い、狗神も同じく百パーセント二枚揃えている。
花咲はたぶん、何も考えずにカードを選択しているのに対して、狗神は、観察して分かったことだが、たぶん全てのカードの位置を暗記している。
それは僕がトランプをシャッフルした時からだ。
瞬きすらせずに狗神はシャッフルされるトランプを見ていた。
ある意味、一番記憶力があるのは狗神かもしれない。
「あー、もうこんな時間だ」
榎本が時計を見上げて言った。
と、その時、電話が鳴る。
「僕が出るよ」
花咲が電話に出る。
「江迎さん、帰って来たって」
花咲の言葉に僕たちは江迎の家に向かった。
「江迎さん。プリント持ってきたんだけど」
インターホン越しに告げる。
玄関の鍵が開く音がして、ドアが開く。
「あ……」
そこに居たのは、昼間助けたゴスロリ服の女の子だった。
「まぁ、あなたは……」
「初めまして、じゃないか、春日野遥だよ。君を登校させに……」
江迎が目を輝かせる。
「これは運命よ。間違いないわ」
「え……?」
江迎は僕を家に引きずりこむ。
そして、何やら紙を取り出してきた。
「さぁサインして!」
紙には婚姻届と書かれている。
「ちょっと待って、なにこれ?」
江迎は頬を赤らめて言った。
「あ、あの! 遥くん! 私、江迎三葉っていうんだけど! ねぇ、子供は好き? 私は好きなんだ。子供は何人欲しい? 私は五人欲しいな。男の子が二人、女の子が三人ね。顔は遥くんに似てるかな、私に似ているかな? たぶんどっちに似ても可愛いよね。そして将来は白い庭付きの家に住みたいな。そうだ。犬を飼おうよ。私は犬派なんだ。でも遥くんが猫好きなら猫でもいいよ。私は犬以外に猫も好きだから。だけど一番好きなのは、勿論遥くんなんだよ。遥くんが私のことを一番好きなように。
だって、赤信号で死にかけた私を助けてくれたから。
私も好きよ。好き。大好きよ。
そういえば、私ね、小学生のときに気になる男の子がいたの。
えぇ、もちろん今となってはその子とはしゃべらなくてよかったと思っているの。だって遥くんに出会えたんだもの。遥くんは好きな女子はいる。いないよね? 今の遥くんにとって、他の女子なんて石ころみたいなものでしょう? だって遥くんは私のことが一番好きなんだもの。でも気になる子はいるよね。仕方ないわ。しゃべるだけなら許してあげる。でも、手を繋ぐのはダメよ。だって私、妬いてその子を殺しちゃいそうだもの。他の女子には可哀想なことだけど、遥くんが私を好きなんだから他の女子は諦めないとね。遥くんはかっこいいし、勇気があるからきっとたくさんの女子にモテるんだよね。明日からお昼には弁当を作ってくるけど、照れて逃げないでね。そんなことをされたら私傷ついちゃうもん。きっと立ち直れないわ。ショックで遥くんを殺しちゃうかも。なーんて」
理解出来たのは最初だけだった。
「うん?」
これが、僕と江迎三葉の出会いだった。