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狗神黒の推理  作者: 狗神黒
狗神黒の謎解き編
8/33

コノハの完全犯罪

狗神が続けて言う。

「氷なら時間が経てば溶けます。死亡予想時刻はいつですか?」

警察の人が答える。

「昨日の一時頃だ」

「これで、水溜りと消えた凶器の謎が解けました」

「そして、僕が部屋を出る」

花咲が狗神の部屋から出た。

「そして、私が部屋に鍵を掛けます」

……?

「ちょっとまって、一宮さんは自分で密室を作ったのか?」

僕の問いかけに狗神は頷いた。

「はい。一宮さんが密室を作ったのです」

「なんのために?」

狗神はしばらく無言になった後、答えた。

「……間下さんをかばうためです」

そうか。

捜査を混乱させて間下さんを犯人候補から外すためだったのか。

しかし……。

何か強引すぎないか?

間下さんが怒鳴る!

「俺は一宮を殺してない! 確かにあの老人を殺したのは俺だ。だが、一宮は、一宮だけは殺してない! 本当だ! 信じてくれ!」

警察の人たちは暴れる間下さんを連行して行った。

「一件落着、かな」


数時間後。

僕たちは帰りのバスに揺られていた。

途中まで警察の人たちに送ってもらい、電車に乗り、今乗っているのは最終便のバスだ。

「にしても、あれで良かったのかな?」

花咲が首を傾げている。

「何が?」

花咲は笑って言った。

「いや、なんか今回の事件、解決した気にならないんだよね」

「そうなんだ」

「うん」

僕はバスの揺れで次第に睡魔に襲われてきた。

「ふわぁ~」


時は再び遡る。

前日。

深夜。

俺、コノハは一宮と他愛ない冗談を言いあっていた。

「そろそろいいか」

一宮は水の入ったマグカップを手に首を傾げた。

「どうしたの?」

「実は、お前を殺しに来たんだ」

え?

一宮が驚く。

俺はすかさず台所から拝借してきた包丁で一宮の腹部を刺す。

「え……なんで……」

一宮はそう言いながら崩れ落ちた。

マグカップから水がこぼれ落ちる。

包丁を抜く。

返り血を浴びるが、こんな時のために雨合羽を着てきている。

雨合羽は台風が来ているため、不審には思われなかった。

「さて、一旦外に出るか……」

外に出た俺は、離れから持ってきた五メートルのロープの両端に『窓枠に引っかかりやすい形に死後硬直させたじじいの両腕』を結びつけた。

じじいの身長は高い。

必然的に腕も長いというわけだ。

完成した七メートルの特製ロープを一宮の部屋の窓を開け、外から内側に垂らし、内部に入る。

そして、内部から鍵を掛けてロープを使い窓から外に出た。

そして、重りを付けたロープを包丁と雨合羽と一緒に湖に沈めた。

これで、

「コノハの完全犯罪。終了」


その翌日。

「はよー」

僕はいつも通りに登校した。

「おはよ」

「おはようございます」

榎本や狗神は既に登校していた。

軽くあいさつを交わし、自分の席に座る。

なぜが、僕の席の後ろにもう一つ席が追加されていた。

朝礼が終わり、クラスの担任の先生がコホンと咳をつく。

「今日はみんなに新たなクラスメイトを紹介します」

ああ。

予想はついていた。

花咲が休学を終えて復学してくるのだ。

「入って来なさい」

ドアが開く。

入って来たのは、予想通りで、制服姿の花咲だった。

「やっほう!」

「……」

頭痛がする。

いや、正直に言おう。

僕は花咲が苦手だ。

「花咲は十七歳だが同学年だ。皆、仲良くするように」

花咲はニコニコ笑っている。

あの笑顔の下で何を考えているのだろう?

それが、僕には分からない。

「花咲の席は……」

まさか?!

「遥の後ろがいいな」

そう言うと花咲は僕の後ろの席に座った。

空いている席なら他にも一つある。

なのに、何故だ?


放課後。

「春日野。ちょっと来なさい」

先生に呼ばれる。

「なんですか?」

先生は僕にプリントの山を渡す。

「不登校児が一人いるのは知っているな?」

「はい。江迎えむかえさんですよね」

空いている席の生徒の名前を思い出す。

彼女は入学式の時から来ていない。

僕は彼女に会ったことはないし、彼女も僕を知らない。

「で、なんだが。そろそろ登校日数が危ないんだ」

「そうなんですか」

先生は両手を合わせる。

「頼む。登校するように説得してくれ」

「えぇ~」

心底嫌な顔をする。

先生が説得すればいいじゃないですか。

そう言うと、

「家から出て来てくれないんだなよ」

と言い、小声で付け加える。

「……登校させてくれたら焼肉を奢るぞ」

はぁ。

どうしてこんなのが教師をやっているんだろう。

不思議だ。

「分かった。その話、受けるわ」

返事をしたのは何時の間にか後ろにいた榎本だった。

「げっ!?」

先生が驚く。

榎本はお構いなしに続ける。

「狗神と花咲、わたしと遥で四人分の焼肉ね」

先生がサイフを見て、榎本と交渉する。

「……給料日過ぎてからでいいか?」

「オッケー」

というわけで、四人で江迎の家に行くことにした。

江迎は僕と同じマンションに住んでいるらしい。

バス停に向かう。

「遥。バスに乗るの?」

榎本が何気なく聞いてくる。

いつもは自転車通学なのだが、今日は四人。なのでバスを使うことにした。

理由を説明すると榎本はふぅんと微妙な顔をした。

「あの子、危なくない?」

榎本が指差した先には赤信号で信号を渡ろうとしている女の子がいた。

深窓の令嬢のような雰囲気の女の子は、着ているゴスロリ服が似合っている。

赤信号なのか、運転手の不注意なのか?

赤信号にトラックが猛スピードで突っ込んできた!

「花咲!」

カバンを花咲に放り投げると、僕は赤信号を駆け抜けた。

女の子に全力でぶつかる。

そして、女の子を押し倒すように反対側の道に倒れ込んだ。

「痛てて……」

あちこち擦りむいた。

女の子の方を見る。

「大丈夫?」

女の子は、か弱い、小さな声で返事をする。

「はい。なんとか」

「遥~! 大丈夫?」

花咲が青信号になってから渡ってくる。

そして、抱きついた。

「止めろ」

花咲を引き剥がし、女の子の方を向く。

「ありがとう。お礼をしたいからよかったら家まで来ませんか?」

女の子には悪いが、僕には江迎を登校させるという義務がある。

「ごめん。他に行かなきゃいけないところがあるんだ」

女の子はそうですか、と言って、歩き始めた。


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