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狗神黒の推理  作者: 狗神黒
狗神黒の謎解き編
6/33

犯人探し

「わーい。また僕の勝ちだ!」

結果だけ言おう。

花咲昴はトランプで反則のように強かった。

ダウトをすれば最初に手札が無くなるし、ブラックジャックをすれば、必ず21になる。

大富豪では毎回革命を起こし、ポーカーでは三回連続でロイヤルストレートフラッシュを出した。

「にしても……」

花咲は脳内年齢が非常に幼い。

それもゲームをしているうちに分かった。

勝負に勝てば素直に喜ぶし、大富豪で窮地に陥れば心底どんよりした顔を見せる。

ある意味、この中で一番神経が図太いんじゃないだろうか?

「で、殺人事件の話なんだけど」

花咲は何気ない口調で言い始めた。

「僕的には間下さん、が怪しいんだよねー」

衝撃的な発言に場が凍りつく。

幸いにも間下さんは一宮さんと二人であの異常に天井が高い部屋にいる。

「なぜ? ですか?」

花咲はふふんと笑う。

ああ、分かってしまった。

この人は既に証拠も確証も掴んだ上で、それを言おうか楽しんでいる。

花咲昴は、そんな、愉快犯のような人だった。

「じゃあ、最初から検証しよう。まずは先に言っておくことがあるんだけど、一人一部屋にしようと最初に言い出したのは間下さんなんだ。たぶんこれはみんなにアリバイを作らせないため、だよ」

それは初耳だった。

というか、いつ知ったんだそんなこと。

花咲は続ける。

「全てのことには意味がある。だから、殺人に無駄はない」

ズキン。

なぜか心が揺れた。

それは、まるで僕が花咲のセリフに共感しているかのようだった。

花咲はそれに気付かず、話し続けた。

「間下さんが仮に犯人だとしよう。だが、一緒にいる一宮さんは多分シロだ。今回の事件には関係ない第三者だ。これは、僕が二人を観察して思ったことだけどね」花咲は覚えてる? と聞いてきた。

「何を、ですか?」

花咲は携帯電話の画面を見せる。

そこにはおじいさんの死体の写真が写っていた。

「ナイフはどう刺さっている?」

写真を見る。

「左下から右胸に、骨を避けて刺さってます」

「正解」

花咲はさっきの写真とは別に動画を見せた。

っていうか、この人いつ写真や

動画を撮ったんだ?!

動画は間下さんがノコギリを拾い上げたシーンだった。

『死体に酷いことしやがる』

「……何か変なことがありますか?」

花咲は榎本の方を向いて、指を口に当てた。

「ここからは、うら若い女子には秘密だよ。ちょっと二人きりにしてくれないかな?」

榎本はむすっとした表情で談話室のドアに手をかけた。

「別に、二人きりでいちゃついてれば!」

花咲はいたずらを怒られた子どものようにシュンとした。

「嫌われたかな?」

「きみ、人の心が分からないの?」

花咲は心外だという顔をした。

「分かるさ。だから彼女を遠ざけた」

「ん?」

花咲はもう一度動画を再生した。

『死体に酷いことしやがる』

「気付いたかい?」

ああ、鈍感な僕でも気付いた。

気付いてしまった。

「二つ、気付いた」

「上出来だ」

花咲は笑う。

「満点だよ。言ってみなよ」

花咲はもう一度動画を再生する。

僕はそれを途中で止めた。

「まず第一に、間下さんは左手でノコギリを取っている。このことから間下さんは左利きだと分かる。そして、おじいさんに突き刺さっていたナイフは左下から刺されていた」

「だから?」

「下から刺されているのは分かる。おじいさんは長身だから。だけど、なぜ左から刺されたのか?」

「なぜかな?」

「犯人は左利きだったから」

「そして、左利きは間下さん以外にいない。これは僕がみんなを観察して気付いたことだ」

花咲はニコッと笑う。

本当に子どもみたいに笑う人だ。

いや、だからこそ一番早く真実に気付いた。

「いや、違うね」

花咲は心の中を読んだように言った。

「ここまでは、狗神さんも気付いてたよ」

だから、か。

狗神が離れに向かったのはナイフの位置を確認するためか。

「ここまでは、ってことは、ここからは気付いていないんですね?」

「うん。多分」

そう言って、花咲は真顔になる。

「二つ目を、言ってみなよ」

「二つ目、それは……」

動画を再生する。

『死体に酷いことしやがる』

「死体に酷いことしやがる」

花咲が言う。

「変な文章だよね」

「ええ。死体に酷いことしやがる。まるで、ノコギリでの切断が死んだ後に行われたことを知っているみたいな口ぶりですよね」

「そう。そして……」

花咲が何を言いたいのか分かる。花咲と真実を確認するように僕は言った。

「「ノコギリで両腕を切断した犯人は他にいる」」


時間は遡る。

俺はカップルの片方がじじいを刺したのを確認すると、手袋を付けた。

そして、まだ息のあるじじいに質問する。

「怨みって怖いよな?」

「君は……」

「俺か? 俺の名前はコノハ、八人目の客人だよ」

じじいはふっと笑う。

「なるほど、そういうことか」

「ああ」

じじいが質問する。

「私は、助かるかね?」

「いいや、この傷なら無理だね」

じじいは最後に俺に向かって言った。

「あいつに復讐したい。最期の願いだ」

「いいぜ」

俺はノコギリを手に取った。

「復讐してやるよ」


花咲は僕に耳打ちする。

「君は多分、今回の事件には関係がないよ」

「なぜ?」

花咲は僕に顔を近付けてきた。

「探偵はね、人の顔、仕草を見ればだいたいどういう人か分かるんだよ。君は人殺しじゃない。そう感じたんだ」

僕は花咲の勢いにのみ込まれかけながら、反論する。

「っていうことは、僕以外は人殺しの才能が有るってことですか?」

花咲はうん、と頷いた。

「狗神さんと榎本さん。二人とも化け物に、僕は見えたよ」

「そう……ですか」

花咲は僕を元気づけるように言った。

「間下さんが両腕を切断した可能性も全くないわけじゃない。現に、そう考えれば一人一部屋で全員のアリバイを無くしたり、わざとノコギリに触って指紋がその時に付いたように誤魔化した可能性だってある」

完全に間下さんを犯人扱いしている。

そして、僕は訂正しよう。

花咲昴は、探偵だ。


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