コノハとは
翌日の昼。
僕たちは私服に着替えて学校に来ていた。
昨日の事件は花咲が言っていたように全てあの殺人鬼の仕業になった。
「さて、みんな集まったね」
心葉は僕の方を見た。
今、ここには大衆心理研究部の全員がいる。
「重大発表をします」
心葉がニヤッと笑う。
「この中にコノハがいます」
榎本と僕、逢魔と宮川以外の人は驚いた。
「まあ、僕が心葉なんだけどね」
今度は宮川と逢魔が驚く番だった。
「なんで……コノハは……」
宮川が僕と榎本の方を向く。
「朱鷺ちゃん。コノハはERプログラムを何回受けている?」
心葉は意味の分からない質問をする。
「二回です。二回とも三日で修了しています」
「ありがとう。一回目は僕、咲畑心葉なんだけど」
心葉は僕を指差した。
「二回目はここにいる九重心葉くんだよ」
……………………………………え?
「嘘をつくのが君の悪癖だよ。コノハくん」
榎本が心葉に抗議する。
「遥は確かに旧姓が九重だけど、でも、心葉なんて名前じゃない」
心葉は僕を、
いや、
俺を見た。
「嘘をつくのは得意なんだ」
俺はつられて言う。
「でも本音は少し苦手でさ」
「自分すら騙して」
「俺は今日も法螺を吹く」
そう、俺がコノハだ。
「よくある話だよ。幼少期の虐待で二重人格が生まれるなんてね」
心葉は俺に近づく。
「人格を統合しようか」
そして、俺の、僕の意識は闇に落ちた。
「ん……」
雪が降っている。
ここはどこだ?
病院?
なぜ僕はここにいる。
「あ……」
誰かが駆け寄ってくる。
「榎本?」
榎本は髪が伸びていた。
腰まで伸びた髪をポニーテールにしている。
「遥。起きたんだ」
「榎本。今日は何日だ?」
「十二月二十四日。クリスマスイヴだよ」
「時の海~飛び込んで~モノクロの夢を彷徨う~」
誰かが歌っている。
「君は、誰だ?」
「忘れたんですか? 私は……」
「……るか! 遥!」
「あ、ごめん」
僕は電車の中で寝ていたらしい。
「心葉から遥がなにをしたのか、
あの後全て聞いた」
「そう」
一宮さんを殺したりしたのは僕だ。
「でも、全員が赦した」
「えっ!?」
榎本は突然、僕を抱きしめた。
「全部隠さずに言ってよ。わたしは遥のことが好き、なんだから」
「榎本……」
「紗江って呼んで……」
紗江は唇を近付けてきた。
僕は拒むことができなかった。
なぜなのか?
分からない。
人生なんて不合理だ。
なんて言い訳をして、僕は……。
「ん、あぁ」
キスをした。
柔らかい感触と紗江の甘い匂いで頭がパンクしそうだ。
「じゃあ、行こう」
紗江に連れられ、学校へ向かう。
部活棟の一角に大衆心理研究部と書かれた部室があった。
そこには大衆心理研究部のメンバーが揃っていた。
心葉がケーキを切り分ける。
「紗江ちゃんから連絡を受けて全員が集まったんだ」
心葉は僕の髪を撫でた。
「髪が伸びて元の純白の髪に戻ったね」
僕は生まれつき、白い肌と白い髪、赤い目をしている。
だから目立たないようにカラーコンタクトや黒毛染めを使っているのだ。
僕は心葉と同じ、アルビノだ。
アルビノとは病気の一つで、太陽光が害になる場合があるが、僕は大丈夫みたいだ。
「心葉……」
なにを言えばいいのか分からない。
「とりあえず。退院おめでとう。遥くん」
心葉はそう言うとニッコリと笑った。
二時間後。
「じゃあ、また明日」
僕と狗神以外は全員家に帰っていった。
「春日野さん」
「うん?」
狗神はボソボソとしゃべった。
「あの……遥って呼んでいいですか……?」
ドキッとした。
僕は最低な人間だ。
二人の女の子をどうしようもなく好きになってしまった。
「狗神。いや黒。君には分かるかな?」
「なにが?」
「どうしようもなく、二人の女の子を好きになってしまった男の子の気持ちが」
紗江と黒。
どちらかを選ばなくてはならない。
けど、今の僕には無理だ。
「遥。目を閉じてください」
「うん」
目を閉じる。
柔らかいなにかが唇に触れた感触がした。
「大好きです。遥」
狗神黒の推理。ひとまず終了です。
続編は気が向いたら書きます。
では、続編、狗神黒の慟哭(仮)をお楽しみに。




