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狗神黒の推理  作者: 狗神黒
九重遥編
32/33

回想

僕と榎本は幼少時、親に虐待されていた。

「榎本。大丈夫?」

「遥の方が酷い怪我をしているじゃない!」

僕の父は病院の院長で、母はその病院に勤めている看護師だった。

榎本は今でこそ両親とまともにやり合っているが、小さい頃は両親の暴力になす術も無かった。

それは僕も同じで、両親からの虐待で生死の境をさまよったこともある。

だが、医者の父はその死ぬギリギリのラインを知っていて、僕に死ぬことを許さなかった。

そんなとき、僕と榎本はコノハに出会った。

「やぁ」

第一声がこれだった。

コノハは木の下の木陰でクロスワードをスラスラと解きながら、僕たちを見た。

「虐待されているね。それに食事もあまり食べてなさそうだ。僕の家においで」

僕と榎本はコノハについて行った。

明らかに怪しいけれど、コノハは優しい人だと思えたからだ。

「どうぞ」

家に着いたコノハはドーナツを出してきた。

僕は他人が食べるのを見たことはあっても、実際に食べるのは初めてだった。

「ん? 毒は入ってないよ」

「……いいの?」

尋ねる。

「どうぞって僕は言ったんだけどな。ドーナツは嫌い?」

「いえ。食べたことがないので」

コノハがドーナツを一つ手に取り、食べた。

「うん。美味しい。君たちもどうぞ」

「「いただきます」」

僕と榎本はドーナツに文字通りかぶりついた。

「美味しい!」

榎本が笑顔になる。

それを見ていたコノハは嬉しそうな顔をした。

「毎日ここに来てもいいよ。でも、僕からも一つお願いがあるんだ」

「お願い?」

僕は首を傾げる。

「そう……」

あの時、コノハはなんて言ったのだろう。

それが、思い出せない。

それから僕と榎本は毎日のようにコノハの家に向かった。

コノハは料理が得意らしく、毎回違う美味しい料理を用意して待っていた。

「君に僕の全てを託そう」

それは僕に言ったのか、榎本に言ったのか分からない。

ただ、その日からの記憶が曖昧だ。

そして、ある日榎本と僕はコノハに別々の二つの粉末状の薬剤を渡された。

「遥くんのお父さんは牡蠣、お母さんはカニが食べられないんだってね」

「うん」

そんな話をした気がする。

榎本にもコノハは似た話をした。

「本当に両親に復讐したいなら、それを二人のお茶に入れるんだ。こっちがお父さん。こっちがお母さんだよ」

結論から言えば、僕は薬剤をお茶に入れ、榎本は入れなかった。

「どうだい?」

コノハは最初に会ったときと同じ木の下で聞いた。

「両親はアナフィラキシーショックで死にました」

僕はどんな表情で言ったのだろうか?

きっと、笑顔だった。と思う。

後になって知ったが、薬剤はカニと牡蠣の成分を粉末化したものだった。

それを摂取した両親はアナフィラキシーショックで死んだというわけだ。

アナフィラキシーショックとは、命に関わるタイプのアレルギーだ。

呼吸困難になり、両親は死んだ。

榎本の両親は、死ななかった。

「ねぇ、コノハは殺人鬼なの?」

榎本は無邪気に聞く。

まだ、その言葉の意味すら知らないのに。

「うん。そうだよ」

コノハは僕に向かって言った。

「君に魔法をかけた。でも、いつ魔法が発動するかは分からない」

でも、やるべきことは全てやった。

コノハはクロスワードを破り捨てた。

「さぁ、君たちは帰りなさい」

その翌日。

コノハはふらりとどこかに引っ越し、僕は心葉の魔法にかかった。

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