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狗神黒の推理  作者: 狗神黒
学園ラブコメ編
31/33

花咲昴の本音

僕は嘘つきだ。

嘘ばかりついてきた。

それが花咲昴という人間だ。

笑顔で全てを隠し。

自分すら騙した。

けどさ。

隠しきれないよ。

榎本への好きという気持ちが。

騙しきれないよ。

僕の本音を。

「これは、勝者のいない物語」

肝試しのが終わったとき、僕はそう思った。


僕は法螺吹きで大嘘つきだ。

だから、自分すら騙してみせる。


「あと残り一枚だね」

僕は狗神にそう言った。

音楽室以外の仕掛けは絵の目が電球で光ったり、人体模型を糸で操ったりと、安全なものばかりだった。

「にしても、なんでみんな帰ってこないんだろうね?」

僕が狗神にそう言うと、狗神は一瞬だけ『あの』狗神になったが、すぐに元の狗神に戻った。

「杞憂ですね」

「なにが?」

狗神はいえ、と言った。


「さて、探せるところは全て探したわけだけど」

僕らは音楽室へ帰ってきていた。

校長室や生徒会室など鍵が掛かっているところ以外は全て探したはずだ。

「まだ……あ」

狗神がなにかを言いかけて後ろを指差した。


「やぁ、親友」

僕は縛られていた。

狗神が居ない!?

狗神は大丈夫なのか?

「大丈夫。狗神さんなら上手く逃げたよ」

辺りを見ると、先に行ったチームのメンバーが眠らされていた。

「ああ、大丈夫。睡眠ガスで眠っているだけだよ」

花咲はなんでもないかのように言った。

「こんなことをして……」

ただで済むと思っているのか?

そう言いかけた口を思いっきり蹴り飛ばされる。

「ああ。大丈夫。身代わりは用意してあるよ」

花咲が男を引きずってきた。

男は気絶している。

「殺人鬼さ。こいつに全ての罪をかぶせる」

花咲は、だからさ、と言った。

「安心して死ね」

榎本のこと、まだ許していないんだね。

僕は死を覚悟した。


まだだろう?


誰かがそう言った。

「誰だ。お前は?」

花咲はその人を見た。

忘れるわけがない。

僕の人生を変えた人。

ERプログラム最短修了者。

探偵であり、殺人のプロ。

そして、一度見たら忘れない醒めるような僕と同じ赤い眼。

咲畑さきはた心葉このは

「やあ、久しぶり。九重ここのえくん」

懐かしい名前で呼ばれる。

「九重? こいつの名前は春日野遥だぞ?」

花咲がそう言いながら心葉に接近する。

花咲の間合いだ。

だが、

「うん。六十点」

心葉に投げ飛ばされる。

いや、僕には投げ飛ばされる過程は見えなかった。

ただ、結果だけ見えた。

達人しかできない行為だ。

一流の達人は、なにをしたのか全く分からないという。

まさに、さっきの花咲はそれだ。

「心葉!」

「久しぶりだね」

心葉が頭を撫でる。

若い。

出会った頃から全く年をとってないように見える。

「怖かったかい?」

心葉は笑顔で僕の手や足の縄を外す。

「さて、僕は誰を倒せばいいのかな?」

心葉の赤い眼が花咲を見た。

「ああ。君が敵かい?」

「どうして……」

「ん?」

心葉が一歩後ずさりした。

パン!

さっきまで心葉がいた空間を弾丸が切り裂く。

「花咲。それ、拳銃じゃ……」

花咲の手には映画やアニメ、刑事ドラマで見る鋼鉄の拳銃が握られていた。

「花咲。それ、どうやって?」

どうやって入手したんだ。

その問いに心葉が答える。

「パーツをバラバラに買って。弾は自作したのかな?」

「そんなので拳銃って手に入るんですか?」

久しぶりの再会につい敬語になってしまう。

「うん。性能は保証できないけど、金か少しのツテがあれば拳銃なんて簡単に手に入るんだよ」

心葉は笑っている。

花咲の仮面のような笑みではない。

殺し合いを、本心から楽しんでいる。

「楽しいなー。だけど、僕と拳銃の相性は最悪だよ」

心葉はそう言いながら間合いを詰めていく。

「九重くん。いや、遥くんならこの意味、分かるよね」

分かる。

心葉に人は勝てない。

絶対に。

ゲームに例えれば、花咲が幸運なら心葉は反則だ。

最初から勝ち目がない。

「紗江ちゃんにも会いたいな。だから」

速攻で終わらせるね。

そう言うと、心葉は僕の視界から消えた。

「な、消えた!?」

花咲は驚いている。

心葉の特技の一つ。

『目を隠す』力だ。

原理は常に人の盲点に移動することにより、『消えたように』見えるらしい。

人ができる技ではない。

けれど、それができるのが心葉だ。

「僕はさ。ずっと遥くんの側に居たんだよ」

ずっと?

「そう。僕の暇つぶしにはもってこいだったよ」

心葉はこっちを見てニヤッと笑った。

「特に五月にDVDを入れ替えたときに紗江ちゃんをかばったのは男らしくて気に入った」

「うわぁあああ!」

花咲が銃弾をデタラメに撃つ。

だが、見えない相手には当たらない。

「全て撃ち終えたかな?」

心葉が姿を現す。

花咲はうなだれている。

「じゃあ……」

パン。

心葉の心臓を銃弾が貫いた。

「あはははは! 拳銃はもう一丁あるんだよ!」

花咲が笑う。

「心葉!」

「だけど死んだのは実は幻だった」

僕の横に心葉が現れる。

さっき使ったのは心葉の『目を騙す』力だ。

強制的な暗示。

幻を見せたり、人を操ったりできる力だ。

確か、大脳に干渉する音を口笛で発生させるという原理だったはずだ。

心葉は人ができないことを簡単にしてしまう。

それが、咲畑心葉という人間だ。

「昴くん。本音を言ってみたらどうかな? 理由によっては君を見逃してもいい」

花咲は拳銃を放り投げた。

心葉が足で蹴り飛ばし、拳銃がバラバラに分解される。

「僕は、ずっと榎本のことが好きだった。初恋だったんだ」

心葉が花咲に近寄る。

花咲はもう抵抗しない。

「けれど、紗江ちゃんは遥くんが好きだった」

「そう。だから、遥がいなくなれば榎本が僕を振り向いてくれると思ったんだ!」

心葉はクルッと僕の方を向いた。

「と、昴くんは言っているけど、遥くん的に赦せる?」

もし、赦さないと言ったら、ためらいなく心葉は花咲を壊すだろう。

人間として再起不能になるまで。

「赦します。元々の原因は僕のせいだから」

心葉は言った。

「そう。なら……」

心葉は誰かにメールを送る。

「ん? 紗江ちゃんや逢魔ちゃんにメールをしているんだよ」

「内容は?」

心葉は笑って言った。


「また明日。この学校で」

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