思わぬ乱入者
携帯電話でニュースを見ていると殺人罪で捕まっていた人が脱走したというニュースがトップに出ていた。
かなり近い。
学校に逃げ込む可能性もある。
流石に校長も肝試しを中止するだろう。
そう思っていたが。
「肝試し。始めまーす」
校長が校庭に生徒を集める。
参加は自由なので人数は少ない。
だが、そのほとんどが女子だ。
「じゃあ、チーム組んで」
…………は?
「二人から四人でチームを組んで」
校長の言葉でチームが組まれる。
榎本は江迎、花咲、来ヶ谷とチームを組んでいた。
僕といえば……。
「逢魔。チームを組もう」
「嫌です」
「宮川。チームを……」
「お断りだよっ」
味方が一人もいない。
女子はほとんど四人チームで僕は一人だ。
逆境だ。
「チームが組めない人に参加資格はないからね」
校長がだめ押しをする。
「私とチームを組みましょう」
腕を組んできたのは狗神だった。
「狗神~」
ウルウルとチワワのように狗神に感謝してみる。
狗神が珍しく嫌そうな顔をした。
「暑い、重い、うざったいので少し離れてください」
腕を組んできたのは狗神なのだが。
「じゃあ、一チームずつ行こうか」
校長がクジを取り出した。
最初のクジを引いたチームが圧倒的に有利だ。
「さあ、引いて」
クジの運は悪いんだよな。
そう言うと狗神がクジを引いた。
「最後です」
「えぇえええ!」
ものすごい不利だった。
というか最下位だった。
「頑張りましょう」
「……うん。そうだね」
大丈夫。
最下位でも希望はあるさ。
こんなとき、あの人ならどうしただろう?
きっと、笑って最善策を選ぶんだろう。
「じゃあ、最初のチーム。出発」
五分ごとに一チームずつ校舎に入っていく。
だが、
「誰も帰ってこない?」
僕はそうつぶやいた。
あれから一時間ほど経っているが、未だに誰も帰ってきていない。
「校長。次は僕たちの番ですよね」
校長はうん、頑張ってねとおざなりなセリフを吐いた。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
狗神の手をとり、校舎に入る。
「最初はどこを探す?」
「理科室に行きましょう」
狗神は理科室にお札を隠したのを見たと言った。
「なら、理科室のどこかにあるはず……」
僕が理科室のドアを開けようとすると狗神が待ったをかけた。
「どうしたの?」
「トラップの気配がします」
僕は狗神の忠告を受けて、ドアをゆっくり開けた。
すると。
ヒュンヒュン。
「うわっ!」
弓道部の使っている矢が、ドアを開けると発射される仕組みになっていた。
「危なかったです……ね……?」
狗神がこっちを向く。
「頭。矢が当たったんですか?」
「うん」
流石弓道部の弓矢。
威力が高い。
頭がフラフラになりながらお札を探す。
お札は理科室のビーカーの中にあった。
「仕掛けは、私たちが最後なので元に戻さなくていいですね」
「そうだね」
最後の一枚のお札をビーカーから取り出して言った。
チームの数は肝試し開始まで分からなかった。
つまり、お札は全チーム分はないということだ。
「次は……」
僕たちは榎本がトラップを仕掛けた音楽室に行くことにした。
「音楽室ですか」
「うん」
狗神は音楽室のドアを開けた。
トラップは、ない。
一歩踏み出そうとして、狗神の声で立ち止まる。
「危ない!」
首すじから血が流れる。
ピアノ線よりはるかに細く鋭い糸が首の部分に張られていた。
「榎本……いや、江迎の仕業か」
恋敵を殺すという目的なら榎本より江迎が仕掛けたと思った方が自然だろう。
「ピアノの上にありますね」
狗神がピアノの上のお札を取る。
お札はかなり残っていた。
「血は僕の分しかついてないみたいだね」
幸いにも他にこのトラップに引っかかったチームはいないということだ。
安全のため、糸は外しておく。
「次は……」
どこに行こうかと狗神に聞こうとして、狗神が懐かしい物にでも出会ったようにピアノを撫でているのを目撃した。
「狗神。ピアノ弾けるの?」
「はい」
狗神は絵も上手なうえにピアノも弾けるのか。
「弾いてみてよ」
「分かりました」
狗神が椅子に座る。
「では……」
狗神の指が旋律を奏で始めた。
「この曲は……」
悲しいような、恋のようなほろ苦い曲だ。
「曲名はラプソディーインブルーです」
狗神が弾きながら説明する。
「狗神みたいな曲だね」
狗神はピアノを弾きながら聞き返してきた。
「私みたい、とは?」
僕は狗神に伝わるよう、本心から言った。
嘘つきの本気のセリフを。
これまで嘘ばかりついてきたけどさ。
これは本心だよ。
「狗神みたいに綺麗な曲だってことだよ」




