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狗神黒の推理  作者: 狗神黒
学園ラブコメ編
28/33

横断歩道の殺人者

俺と宮川は買い物に来ていた。

宮川は引っ越したばかりでまだ最低限の家具しかないからだ。

「なんか。こうしてるとデートみたいだね~」

宮川が腕を組んでくる。

暑い。

重い。

うざったい。

「で、なにを買うん……」

宮川が女性とぶつかった。

「ごめんなさい」

宮川が謝る。

「いえ。わたし、あまり目が見えませんから。こちらこそすいません」

女性は謝ると歩き出した。

青信号のピユピユという音がなり、女性は歩き出した。

「あの人。目があまり見えないのにヘッドホンをしてたな」

耳が聴こえなくなったら大変なのに。

変なやつ。

「え。あれって飾りじゃないの!? だってコードがないよ」

宮川が驚く。

「Bluetoothのヘッドホンだ」

俺は宮川にBluetoothについて説明した。

Bluetoothとは、携帯情報機器などで数m程度の機器間接続に使われる短距離無線通信技術の一つだ。ノートパソコンやPDA、携帯電話および周辺機器などをケーブルを使わずに接続し、音声やデータをやりとりすることができる。元々スウェーデンのEricsson社が開発した技術を元に、同社とIBM社、Intel社、Nokia社、東芝などが中心となって設立されたBluetooth SIGが仕様策定や普及を推進している。IEEEによってIEEE 802.15.1として標準化されている。

Bluetoothは、免許なしで自由に使うことのできる2.45GHz帯の電波を利用し、最高24Mbpsの速度で通信を行うことができる。Bluetoothは赤外線を利用するIrDAと違って、無線を利用するため機器間の距離が10m以内であれば障害物があっても利用することができる。また、Bluetoothは0.5平方インチの小型のトランシーバを利用するため、IrDAに比べ消費電力が小さく、製造コストも低く抑えられる。

Bluetoothは様々な用途で利用されることを想定し、用途や機器によって実装すべき機能やプロトコルを「Bluetoothプロファイル」として個別に策定している。コンピュータにマウスやキーボードを接続するためのHID(Human Interface Device Profile)や、プリンタにデータを送信して印刷させるためのBPP(Basic Printer Profile)、機器間で無線ネットワークを構築するPAN(Personal Area Network Profile)、携帯電話などでヘッドセット(イヤホンマイク)を接続するためのHSP(Headset Profile)などがある。

「ERプログラムで習ったはずだが?」

宮川はあー、となにか思い出したように言った。

「覚えてます。覚えてます。えー、あれだよね。うん」

覚えてないな。こいつ。

「まー、そんなことより買い物に行きましょう」

宮川に連れられ、俺は買い物を始めた。


「コノハ。この服とかどうですか?」

宮川が試着コーナーで着替えて出て来た。

フリフリのついたネグリジェのような服だ。

「胸以外はサイズが合っているな」

宮川はガーンという擬音が聞こえそうなほど落ち込んだ。

「大丈夫だ宮川。胸以外はサイズが合っている。胸以外は」

「うわーん。コノハがいじめる~」

宮川は半泣きで試着室に逃げ込んだ。

俺は適当に宮川に合う服を探すと、上から試着室に放り込んだ。

「痛っ!」

「あ、ごめん」

宮川はしばらくして俺が選んだ服を着てきた。

「どう。ですか?」

赤いTシャツにジーパン。

そして、夏用マフラーを首に巻いている。

「いいんじゃないか?」

宮川はじゃあ、と俺を試着室に連れ込んだ。

「わたしがコノハの服を選んであげます」


「さて、買い物も済ませたし、帰るか……」

帰り道で俺と宮川が話していると、赤信号なのにふらふらと横断歩道をあるいている女性がいた。

「今朝ぶつかった人だね」

宮川は女性を助けようとしない。

俺も、女性を助けようと動かない。

理由は単純だ。

昼メシを食べたばかりで動きたくない。

「あ……轢かれた」

女性はトラックに轢かれた。

あっさりと死んだ。

さて。

「ちょっとそこのモブキャラくん。警察に行こうか」

横断歩道の向こう側でスマートフォンを弄っていた男性の両手を近くにあったガムテープで縛り、連れてきた。

「さて、宮川。問題だ。警察が来るまでに解け。どうやってさっきの女性をこいつが殺したと思う?」

男性が顔色を変えて抗議するが、無視する。

「コノハは分かっているの?」

ああ。

ここまでにヒントは出し尽くした。

「あ。こいつの携帯電話もヒントだ」

宮川が男性のスマートフォンを操作する。

「直前までミュージックを聴いていた?」

宮川がミュージックを流す。

「分かった」

宮川が分かったと手を上げる。

「宮川。言ってみろ」

宮川はスマートフォンの音楽を流す。

パッポーパッポー。

横断歩道の青信号の音が鳴る。

「横断歩道では縦横で音が違います。だから視力が弱い人でも安全に渡ることができます。これを利用して」

宮川が死んだ女性のヘッドホンを見た。

「彼女は視覚障害者で、横断歩道の音で東西南北を感じていた。彼女の耳にBluetooth対応のヘッドフォンを渡し、信号が赤になった瞬間、一瞬音が消えるのを利用して青信号の音を携帯電話のBluetoothで流す。これで勘違いして渡って死ぬ」

説明がちょっと変だな。

だが、大筋は合っている。

「採点するなら七点だな」

もちろん百点満点で。

宮川が向こう側を見た。

パトカーがやって来ていた。

「警察か。俺は帰る」

「なんで?」

宮川の問いに嫌々答える。

「だって、パトカーの音が嫌いだから」


僕と狗神は今日、デートをしていた。

「狗神。この服とか可愛くない?」

狗神はその服を持って試着室に入った。

「どう……ですか?」

狗神の服装はピンクと白を基調にしたいわゆるゆるふわ系の服だ。

「やっぱり落ち着きません」

狗神は生地の薄いコートのようなものを上から着た。

「夏用です」

僕の服はすでに買ってある。

オレンジ色のシャツに黒いフード付きの服だ。前のボタンは外してあり、シャツが見えるようになっている。

「あ、花咲だ」

一瞬花咲だと気づかなかった。

花咲は髪を金色に染めており、白いシャツにモスグリーンのズボンを履いている。

ピアスも新調されているらしく鈍色に光っている。

「お、遥と狗神さんじゃん。デート?」

花咲はこっちにやって来た。

「花咲。髪を染めたんだ?」

「うん。似合う?」

髪を染めたら地肌がいたむんじゃないか?

そんな考えが一瞬頭をよぎった。

「狗神さん可愛いね。遥が選んだの?」

狗神ははい、と答えた。

「遥。ちょっと……」

花咲がトイレに僕を連れてきた。

「二股はいけないと思うんだが? どう思う?」

二股?

なんのことだ?

「昨日。遠目だがお前と女の子が歩いているのを見かけた」

昨日。

昨日は午後から逢魔さんの新しい日傘を一緒に買いに行っていた。

「逢魔さんと日傘を買いに行っていたんだよ。二股じゃない」

花咲はならいい、と僕を解放した。

「男の子同士の秘密の会話ですか?」

狗神がそう聞いてくる。

「うん。そう。秘密の会話」


その日のデートは楽しかった。

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