コノハの模範解答
さて、俺は今回は大人しく探偵ゴッコをするつもりだったのだが、探偵サイドがあまりにも悲惨なので、俺が代わりに推理をすることにした。
旅行最後の日。
昼。
「残念ながら、探偵サイドは犯人が分かりませんでした」
僕は負けを認める。
だけど……。
「一人だけ、真実に気付いた人がいます」
来ヶ谷が笑っている。
どうせハッタリだと思っているのだろう。
僕も嘘だと信じたい。
「朝、鍵のかかった僕らの部屋にある人からのメッセージがメモ帳に書かれていました」
普通なら、書いたのは榎本か僕ということになる。
だが、あの人ならその常識を覆せる。
時間も空間も越えて、全てを見透かす。
そんな気がする。
「メッセージを書いたのはコノハです」
コノハ?
来ヶ谷は首を傾げる。
「まあ、コノハについては後で話します」
これからトリックを実演します。
そう言って僕は花咲の部屋に向かった。
「第一の殺人は省略します」
僕はコノハからのメッセージを読む。
「この部屋には秘密がある。隠し通路がこの部屋にはない」
来ヶ谷が驚愕する。
構わずに続ける。
「隠し通路はこの部屋のある仕掛けを隠すためのカムフラージュだ」
ある仕掛け?
榎本が何気なく家具の引き出しを開けた。
途端に、ゆっくりと部屋が回転し始めた。
「仕掛けとは、この部屋の下に上下逆の同じ部屋があることだ」
「そして、あるスイッチを押すと上下が反転し、上の部屋は下に、下の部屋は上に反転する」
回転が止まる。
僕はドアがあったところを見た。
「おそらく、下の部屋は地下室に繋がっている」
部屋から出る。
不思議な気分だ。
天井が床になっているのだ。
家具が固定されていたのはこの仕掛けのためだったのか。
他の部屋でも家具が固定されていたからこの仕掛けには気付かなかった。
「そして、殺されたのは来ヶ谷ではなく花咲だ」
花咲がニヤッとする。
「顔面を破壊したのは個人の特定を防ぐため。また、来ヶ谷の服を着させたのは来ヶ谷だと誤認させるためだ」
確かに江迎のマネキンにはちゃんと江迎と書かれていた。
来ヶ谷の死体だけは書かれていなかった。
それはマネキンが来ヶ谷だと誤認させるためだったのか。
来ヶ谷の顔に余裕がなくなってきている。
「次に、江迎の殺害だが」
江迎たちの部屋に向かう。
「ボウガンをドアの外に置いて鍵を掛けたあと、矢で直接刺殺したんだ」
ボウガンがあれば、ボウガンを使ったと錯覚してしまう。
「その後、ベッドの下にでも隠れる。そして、人が居なくなってからドアから堂々と出る」
「続きを読んで」
花咲に急かされ、僕は玄関に向かった。
「鏡餅が一つなくなっているはずだ」
「本当だ」
花咲と確認する。
鏡餅がまた一つなくなっていた。
「逢魔殺害の凶器は餅だ。殺害した後で餅をコンロで焼いて食べる。以上でコノハの模範解答を終了する」
来ヶ谷がお手上げのポーズをとる。
「完敗だよ。全て合っている」
昼。
僕らはバスに揺られていた。
「結局コノハって誰なんだろうね?」
花咲がそんな話をする。
「さあね」
僕はあの人について考えつつ、応えた。




