ボウガン
結局、誰も来ヶ谷のトリックが分からないまま二日目を迎えた。
「いやー、遥は料理が上手いね~」
花咲が食べながらしゃべる。
今日の朝食は僕が作った。
まあ英国風の朝食だと思ってくれればいい。
「やっぱり盲点を利用したんじゃない?」
「いえ、それでは……」
榎本と狗神はまだトリックを考えている。
僕は久しぶりにパソコンでオンラインゲームがしたくなり、来ヶ谷に聞いた。
「ネットに繋がっているパソコンってある?」
「いや、ないな。オフラインならあるんだが」
「そう」
「そうだ。アレがある」
来ヶ谷は自分の部屋から鍵とボウガンを取り出してきた。
「なにこれ?」
「ボウガンと合鍵だよ」
何に使うのか分からない。
「まず、ボウガンは森で狩りをするために使うんだ」
確かに、少しあるけば森がある。
だが、肉体運動が苦手な僕は遠慮した。
「合鍵は?」
来ヶ谷は合鍵を僕に渡した。
「合鍵は一つだけだ。だから、密室が出来たときはドアを壊さずに合鍵で開けてくれ」
この前ドアを壊したのは花咲なのだが。
まあ、いいか。
さて、そろそろ登場人物も多くなってきたところだから、俺が簡単に登場人物を紹介しようと思う。
狗神黒
狗神なんて珍しい苗字の少女だ。
黒い本を常に持っている。
黒色を好んでいる。また、コーヒーには砂糖を入れない。
伊達メガネを掛けていたが、壊れたため現在は掛けていない。
春日野遥
たぶん、一番頭が悪い。
だが、たまに冴える時もある。
十五歳。
頭が悪いが勉強は得意。なんでだ?
榎本紗江
春日野の幼馴染み。
花咲に化け物呼ばわりされた。
コーヒーに砂糖はいれる。
背が低いことを除けばプロモーションはいい。
花咲昴
ブラウンの髪とピアスを付けた脳内年齢三歳児の元探偵。
十七歳。
一番冴えた頭脳を持つ。トランプではロイヤルストレートフラッシュを連続で出すなど、チート並みの運を持つ。
宮川朱鷺
コノハと同じERプログラムを受けた天才。
十五歳。
詰めが甘いことを除けば将来有望な殺人鬼。
胸以外はプロモーションがいい。
江迎三葉
毒を初対面の相手に盛るなど、いろいろな意味で危ない女。春日野が好き。メンヘラかもしれない。
逢魔愛
眠そうな顔をした女子生徒。
予知能力のペテンがバレる。
来ヶ谷恭介
隣りのクラスの男子。
おそらくだが人を殺したことがある。
左利き。
今回のゲームを主催する。
コノハ
俺。
特に言うことはない。
犯罪に美学を持っている。
昼。
僕がゲームをしていると、花咲がやって来た。
「来ヶ谷が呼んでいるよ」
花咲と宮川の部屋に行く。
「来ヶ谷? 江迎の部屋に行ったけど」
宮川の言葉を信じて江迎の部屋に向かう。
江迎の部屋に着いた。
「これは?」
朝、来ヶ谷が見せたボウガンだ。
だが、矢が一本ない。
「まさか?」
合鍵でドアを開ける。
マネキンの胸に矢が刺さっていた。
マネキンには丁寧に江迎と書いてある。
「凶器はボウガンか。でもどうやってドアを抜けたんだ?」
分からない。
携帯電話を取り出し、榎本に電話する。
「第三の事件だ。江迎が死んだ」
狗神と榎本がやって来た。
「ドアの鍵は、室内にありますね」
ベッドの上に鍵はあった。
「遥。わたしたちが来るまでに部屋から離れた?」
榎本のセリフに考え込む。
「トイレに行ったから、三分ほど部屋から離れたよ」
「そう」
狗神はボウガンをじっと見つめていた。
その夜。
「さて、今夜、最後の殺人をしようと思う」
来ヶ谷はそう言った。
夜。僕は花咲を監視していた。
花咲を監視すれば、必然的に犯行を見ることが出来る。
「あ!?」
花咲が逢魔と来ヶ谷と一緒に江迎たちの部屋に入っていく。
僕も入ろうとしたが、鍵がかかっていて開かない。
「榎本、狗神! 最後の殺人だ!」
チェスをしていた二人を呼び、僕の部屋にある合鍵を持ってくる。
合鍵を探すのに時間がかかり、三十分ほど経過してしまった。
「入るよ」
榎本と狗神と一緒に江迎たちの部屋に入る。
「マネキンが!?」
マネキンが一体増えている。
マネキンの頭部には鈍器で殴られたような跡があり、逢魔と書かれている。
花咲と来ヶ谷は、寝ている。
「睡眠薬ですね」
狗神が飲み掛けのコップの匂いを嗅いで言った。
だが、花咲は確実に寝たふりだろう。犯人なのだから。
「凶器は?」
榎本のセリフに僕らは凶器を探し始めた。
だが、見つからない。
凶器になりそうな家具は全て留め具で部屋に固定されている。
「狗神。トリックは分かる?」
「いえ」
珍しく狗神は首を横に振った。




