「僕は、君が好きです。狗神黒」
「僕は、君が好きです。狗神黒」
告白した。
僕の思いを。
狗神はうつむく。
「私は、あなたのことが……」
『好きです』
そう聞こえた。
「あーぁ。わたしは失恋しちゃったのか」
榎本が髪をわしゃわしゃとかく。
「遥。わたしも告白していい?」
「うん」
これはけじめだ。
榎本と僕が前に一歩踏み出すための。
だから、僕は応えなければならない。
「わたしはずっと君が好きです。春日野遥くん」
ごめん。
榎本の気持ちには応えられない。
「ごめん。僕は、狗神が好きなんだ。だから、榎本の気持ちには応えられない」
榎本は憑き物が取れたような清々しい顔で言った。
「わたしたち、親友だよね?」
あぁ。
そうだね。
榎本が心の中で泣いているのが分かる。
だけど、その涙を見せないでくれている。
僕の決意が揺らがないように。
「ああ。僕らはずっと、親友だ」
狗神や榎本と別れた後、僕は病院に向かった。
「花咲。起きているか?」
花咲の病室の前でドアを軽く叩く。
コンコン。
「入れよ。裏切り者」
花咲の淀んだ声がして、僕は病室に入った。
「花咲。怪我は大丈夫か?」
花咲は頭に包帯を巻いていて、点滴をしている以外は特になにも変わったところはない。
「頭をコンクリートブロックかなにかで殴られたせいで記憶が一時間ばかりない。それ以外は健康だよ」
失った記憶は一時間か。
なら、覚えているな。
「花咲。約束を果たしにきた」
「あぁ、そうだな。とりあえず病室から出よう」
病室から出て、広い場所へ移動する。
「榎本はお前に告白したか?」
花咲は点滴を抜く。
「うん」
そうか、と花咲は言って、構えた。
「告白にどう応えた?」
分かりきっていることを聞く。
だけど、確認しておきたいのだろう。
「断わったよ」
花咲ははぁー、と息を吐く。
「僕は榎本のことが好きだ」
「知っている」
花咲は最初から榎本のことが好きだった。
簡単に想像出来る。
そして、花咲は怒っている。
「僕が榎本を悲しませたことを、怒っているのか?」
「ああ」
もう言葉は要らない。
花咲は僕に殴りかかった。
「まったく! 病院内で喧嘩は止めて下さい」
看護師さんの説教を聞く。
僕と花咲はお互いにあざだらけだった。
まあ、圧倒的に僕の方が多いが。
花咲が本調子なら僕は一発も花咲に当てられなかっただろう。
看護師さんの説教が終わり、僕は花咲と面会時間ギリギリまで話しあっていた。
「殴ってスッキリした。だからこれで今回のことは全て水に流す」
「ああ」
「僕はお前を許すよ。遥」
花咲は笑って言った。
本当に許しているのか、その仮面のような笑顔からは分からない。
「だから、狗神さんを幸せにしてやれよ」
言われなくても分かっている。
「じゃあ、またな。花咲」
「ああ、またね。遥」




