告白
休憩が終わり、サーカスが始まった。
それはどれも素晴らしくて、僕は魅入ってしまった。
サーカスの会場や休憩室は天井が無く、太陽の光が直接ピエロたちに降り注ぐ。
「すごいですね」
狗神は普通の女の子だ。
狗神の笑顔を見てそう思った。
「狗神……」
僕にはまだ二十三人殺しの嫌疑がかかっている。
だけど、捕まる前に狗神に告白したい。
「狗神。サーカスが終わったら、一緒にサーカスの休憩室に来てくれ」
サーカスが終わる。
だが、アンコールの声に団長とピエロ以外はショーの続きを始めた。
僕は狗神を連れて休憩室の入り口に来た。
休憩室には団長とピエロがいて、口論をしていた。
「だから、お前はまだ未熟だ!」
「違う! 俺はあんたより技術が上だ!」
二人とも素晴らしい技能の持ち主なのはショーで確認済みだ。
「狗神……」
狗神の方を向く。
「僕は君のことが……」
ザシュ。
何かを刺す音がして、僕と狗神は休憩室の中を見た。
ピエロが団長をナイフで刺していた。
「……!?」
悲鳴を抑え、ピエロから見えないように休憩室の前に戻る。
角度的にこちらからもピエロたちは見えない。
「警察に電話を」
しまった。
携帯電話は教室にある。
「狗神。携帯電話はある?」
狗神は首を横に振る。
「僕が警察を呼んでくるから、
狗神はピエロが休憩室から出ないように見張ってて」
狗神は角度的にピエロからもこちらからも見えない位置に隠れ、頷いた。
僕は校門に急ぐ。
良かった。
まだ警察の人がいる。
「大変なんです。人が殺されたんです!」
僕は刑事さんにそう言った。
刑事さんと休憩室に向かう。
「狗神、ピエロは?」
「まだ出て来ていません」
刑事さんが休憩室に入る。
「警察だ! 殺人容疑で逮捕……」
セリフがしりすぼみになる。
休憩室にはピエロしかいなかった。
結局。団長の死体は見つからなかった。
僕と榎本は二十三人殺しの罪で、一時的に捕まるらしい。
だが、刑事さんの温情で今日の祭りが終わるまで逮捕は待つそうだ。
無実を晴らすタイムリミットはあと三時間。
僕は狗神とデートを再開していた。
と言っても、実際は消えた死体の謎を解くためと、僕の無実を証明するための聞き込みだが。
それに、何時の間にか榎本も横にいるし。
榎本は今日は無口だ。
「何か、サーカスの備品で無くなった物はありませんか?」
狗神がサーカスの関係者に聞く。
「いやぁ、ない……いや、ナイフ投げ用の四十キログラムの人形が朝から無くなっていたな」
他には、と狗神は聞く。
「ないねぇ」
では、と狗神は質問を変えた。
「いつもと違ったことはありませんでしたか?」
うーん、と関係者は首を傾げた。
隣りで聞いていた風船を配っていた人が言う。
「今日はたくさん人が来たみたいでね。風船が一万と数千個配れたんだ。まぁ、私はそんなに配った気がしないんだけどね」
狗神は榎本と僕に刑事さんを呼ぶように言った。
「謎は全て解けました」
俺は一人独白する。
「さて、謎を解く証拠は全て出揃った。これは少し簡単過ぎるな」
まぁ、もとの殺人トリックはピエロが考えたことだから仕方がないが。
「狗神黒。お前には解けるかな?」
休憩室。
「謎が解けたって?」
刑事さんがやって来て開口一番に言った。
「はい」
狗神は僕に学校の準備室から人体模型を持ってくるように言った。
「まず、死体はどこにあるか、ですが」
「そう。死体はどこにあるんだ!」
刑事さんが鼻息荒く狗神に詰め寄った。
「実演します。皆さんは休憩室の外へ出ていて下さい」
人体模型を狗神に渡し、休憩室の外に出る。
五分後。
「入って来て下さい」
狗神に言われて休憩室に入る。
人体模型が、ない。
「人体模型はどこにやったんだ?」
刑事さんが聞く。
休憩室には人を隠せるスペースはない。
「上をみてください」
狗神は真上を指差した。
つられて刑事さんと僕は真上を見上げた。
「あ……」
そこには三体の人型の物が風船により浮かんでいた。
「死体を風船で空中に移動させたのか……!」
刑事さんがいちいち言わなくてもいいことを言う。
「ナイフ投げの人形は犯行の予行演習用に使ったのでしょう。そして、屋上での殺人のトリックはこれです」
狗神は休憩室の前に立てかけてあったエアガンで人体模型の風船の一つを狙い、撃った。
パン。
全ての風船がその風船にまき付いていたのか、風船が空中でバラバラになり、人体模型が空から降ってきた。
「屋上で殺害されたのではなく、殺害した死体を屋上に風船で運んだのです」
なるほど。
それでつじつまが合う。
「さっそくピエロを逮捕だ」
刑事さんが新米らしき刑事さんに指示を出す。
「はい。分かりました」
「すまなかった」
刑事さんは僕と榎本に謝った。
「別に僕はなんとも思ってませんから」
「……」
榎本は沈黙したままだ。
「今度警察に来てくれ。カツ丼でも奢るぞ」
刑事さんは僕と榎本に名刺を渡した。
名刺には昼間と書かれている。
「昼間さん、ですか?」
「ああ、珍しい苗字だろう。じゃあな」
刑事さんは去っていく。
…………あ!
大事なことを忘れていた。
「榎本。ちょっと来てくれ」
「……」
無口な榎本を教室に連れてくる。
「……なに?」
多少起こり気味の榎本にぬいぐるみを渡す。
「これは?」
クマのぬいぐるみだ。
かなり可愛いと思う。
「好きだろ。ぬいぐるみ」
榎本はクマのぬいぐるみを抱きしめた。
「また、期待させて裏切るの?」
裏切る、か。
花咲にも言われたな。
「僕は榎本のことが、好きだった」
過去形だ。
榎本は……。
「好き、だった?」
ああ。そうだよ。
僕は君が好きだった。
「僕は君が好きでした」
告白する。
僕の思いを。
「なんで! 狗神ならよくて、わたしじゃダメなの!」
榎本は叫ぶ。
確かに、そうだ。
狗神が教室に入ってくる。
「狗神!?」
榎本は驚く。
ごめん。
榎本の気持ちを裏切って。
「まだ、告白をしてなかったね」
結果は分かり過ぎているけれど。
僕らだけが言えることがある。
それは『逃げない』こと。
好きからも、失恋からも。
だから告白するよ。
「僕は、君が好きです。狗神黒」




