花咲の推理
翌朝。
朝食を作る人がいないので、僕が朝食を作っていると、台所の内線に電話が掛かった。
「……」
内線は賢治さんの部屋からだ。
「どうかしましたか?」
「きゃあああ!」
圭子さんの悲鳴が聞こえ、内線が切れた。
「花咲、狗神、榎本! 圭子さんが危ない!」
三人は談話室にいた。
三人を連れて賢治さんの部屋に行く。
圭子さんに呼びかけるが反応がない。
ドアは鍵が掛かっているらしく、押しても引いてもビクともしない。
「くそっ、合鍵があれば……」
花咲が前に一歩出る。
「僕の出番だね」
花咲は拳を構えると、ドアの中央を殴った。
ドアが湿っぽい音を立てて砕け散る。
「あ……」
榎本が悲鳴をあげそうになって、口を抑える。
賢治さんと圭子さんが包丁で刺されて死んでいた。
死体はまだ暖かい。
鍵は賢治さんのポケットに入っていた。
「最後は密室殺人かぁ」
花咲は相変わらずニコニコ笑っている。
朝食の用意をする。
皿は五人分だ。
花咲が内線で全ての部屋に同じ言葉を伝える。
「警察に突き出したりしないから、出て来なよ」
そして、朝食を食べ始めたころ。
彼女がやって来た。
「やぁ、宮川雅さん」
宮川は朱鷺と同じ服、同じ眼帯を付けている。
双子か? 朱鷺と瓜二つだ。
「わたし、隠れんぼが得意だったんだけど。なんで分かったの?」
宮川は聞く。
花咲は皿を渡す。
「食事でも食べながら話そうか」
まず、と花咲は言った。
「僕が最初に違和感を感じたのは最初の昼ごはんなんだ。先生から連絡が来ていたはずなのに一つ皿が多い。幸子さんが間違えて一つ皿を多く出した可能性の方が高いけど、このときに僕は気付いたんだ」
もう一人、館にいるんじゃないかって。
そう言った。
宮川を見る。
宮川は続けて、と言った。
「確証に変わったのは昨日の朝。南條さんが皿を一つ余計に用意したからだよ」
狗神が推理を引き継ぐ。
「南條さんを殺したのは雅さんです。だけど南條さんには雅さんが朱鷺さんに見えた。だから、朱鷺のページを最後の気力で開いたんです」
確かに、朱鷺の部屋には二人でしか出来ないゲームがあった。
二人いれば可能だ。
再び花咲が話し出す。
狗神は朝食を食べることに集中し始めた。
「朱鷺と雅は双子だった。これが今回の南條殺しのトリックだ。そして、ルドルフ、幸子を殺したのも君だ」
「どうやって?」
宮川が聞く。
そうだ。出入り口は窓しかない。
だが、外に出たら……。
「そうか!」
僕は今思いついたトリックを説明する。
「二人を殺害後、窓から脱出し、僕らが居なくなった後で窓から再び室内へ戻る。こうすれば館の中に入れる」
残念。と花咲は言った。
「ルドルフさんと幸子さんの部屋にはあの後、僕が鍵を掛けておいたんだ」
な?!
じゃあどうやったんだ?
「簡単だよ。空いてる部屋に入って内線を二つ同時に掛ける。そして、ルドルフさんと幸子さんにもう片方が南條殺しの犯人でお前も殺されるぞ、と電話すればいい」
言いたいことは分かった。つまり、二人は殺し合いをして二人同時に死んだということか。
「そういうこと」
花咲は心を読んだかのように言った。
「本命は賢治さんと圭子さん殺しでしょ?」
花咲が聞く。
さぁ? と宮川は答えをはぐらかす。
「じゃじゃーん。ここに朱鷺ちゃんの日記があります」
花咲が狗神が見つけた日記を取り出す。
「この中に全て書かれていたよ」
宮川が聞く。
「全て、とは?」
「君が朱鷺と頻繁に遊んでいたこと。そして君たちが……」
圭子さんと愛人の間に産まれた子供であること。
「だって金髪で銀の瞳だよ。日本人の賢治さんと圭子さんの間では産まれないよね」
そうだ。
日記に書かれていたが、宮川は圭子が浮気をして産んだ子供なのだ。
「で、賢治さんにそれを電話で伝える。賢治さんは当然怒り圭子さんを殺害する。あとは、賢治さんが絶望して自殺すれば完璧かな?」
「一つだけ訂正するよ。私が宮川朱鷺だよ」
そう言うと宮川は優雅な仕草で朝食を食べ始めた。
昼。
「おー、お前ら元気か?」
宮川先生が船に乗ってやって来た。
「このダメ教師!」
榎本が宮川先生に蹴りを放つ。
「ぐはぁ!」
榎本が宮川先生を散々蹴り倒している間に、僕は宮川先生に事件のことを宮川が犯人だという部分をぼかして言った。
ぼかして言ったため、結果的に賢治さんが全てを仕組んで自殺したことになってしまったが、仕方ない。
死人はしゃべらない。
宮川が犯人だとは分からない。
「なるほど、で、死体はどうした?」
宮川が答えた。
「私がみんな山に埋めたよ」
そうか、と宮川先生は言った。
「で、遺産はどうなるんだ?」
宮川が二コッと笑う。
「私が全部総取りだね」
「……」
宮川先生はうなだれる。
「あの、警察とかは?」
「面倒だからいい」
面倒って、この人本当に教師か?
「それより、肉、焼肉食いにいくぞ!」
宮川先生のサイフには万札が二十枚近くあった。
「時代はやっぱり競馬だよなぁ」
この人はダメだ。
人間として底辺だ。
だが、
「焼肉焼肉!」
榎本は急いで船に乗る。
「……」
狗神は無口だ。
「焼肉定食~」
花咲は何か口ずさんでいる。
「さて、私たちも行こっ!」
宮川に手を引かれ、僕は船に乗り込んだ。




