刺殺
翌朝。
「まだ生きていたんですか南條さん」
翌朝の朝食を食べながら花咲が不謹慎なことを言う。
南條さんは顔色が赤くなる。
頼むから南條さんを怒らせないでくれ。
「じゃあ、朝食も食べたことだし、海で泳ごうか」
花咲が僕の部屋に向かう。
僕は南條さんの近くにある皿の数が一つ多いことに気付いたが、また幸子さんが宮川教師の分も用意したのだろうと強引に納得させた。
「海は広いな~大きいな~」
花咲が歌う。
「花咲?」
花咲が歌うのを止めてこちらを見る。
「もう犯人の目星はついているんだろ?」
花咲は瞬きをした。
「なんで分かったの?」
いや。
花咲のことだからもうとっくに犯人に気付いていると思っていたけどさ。
流石に半分くらいは勘だったよ。
「犯人は?」
花咲はうーんと首を傾げた。
「狗神さんに証拠を探してもらっているから。犯人の話をするのはその後かな」
狗神に証拠を?
というか、証拠ってなんだ?
「花咲。お前は何を考えているんだ?」
その問いに花咲が答えようとしたとき、ルドルフさんの叫び声が聞こえた。
「南條さんが死んだぞ!」
「南條さんは自室で背中から包丁でさっくりと刺されている、か」
花咲が南條さんについてメモする。
そして、南條さんの死体の横に、かなり胡散臭いダイイングメッセージがある。
「花咲?」
「うん、朱鷺のページだね」
南條さんの右手は鳥類図鑑の朱鷺のページを開いていた。
花咲がつぶやく。
「朱鷺さんが犯人か……」
いや、死人に犯行は不可能だろ。
「やっぱり、狗神さんに証拠を探してもらう必要がありそうだ」
花咲は携帯電話で南條さんの死体を写真に撮る。
「地下室の鍵は?」
花咲の質問にルドルフさんが答える。
「南條さんが持っています」
南條さんの死体を花咲が漁る。
「ない。まあいいか」
花咲は再びみんなを集めた。
「南條さんが殺されたのは恐らく一時間前くらいです。これは死後硬直から判断しました。皆さんは何をしていましたか?」
みんなの反応はそれぞれだった。
賢治さんは、
「私は自室でコンピューターとチェスをしていた」と言い、圭子さんは、
「わたしは台所でコーヒーを捨てていました。毒入りコーヒーなんて飲みたくありませんから」と神経質に語り、ルドルフさんは、
「私は無線を直していた。まだ目処はたっていないがね」と工具を見せた。
幸子さんは、
「私、たぶん南條さんに最後に会ったと思います。一時間前。私が南條さんに鳥について教えてもらったんです」
と爆弾発言をした。
「榎本は?」
榎本は水着のまま答えた。
「海で泳いでた」
狗神は何も言わない。
「狗神?」
狗神が口を開く。
「私は、屋敷の中を捜索していました」
花咲がニコニコと笑う。
「僕と遥は二人で海で遊んでいたからアリバイがあるよ」
と言い、みんなに再度忠告する。
「二人一組で行動して下さい。いいですね」
夜。
狗神と僕は二人で朱鷺の部屋に居た。
部屋にはチェスや囲碁、将棋などがある。
「証拠を見つけました」
狗神が差し出したのは日記だった。
「花咲には?」
「後で話します」
狗神に促されるまま、日記を開く。
そして、僕はこの事件の真相を知った。
夜。
「あれ? 晩ご飯は?」
花咲が能天気に聞く。
賢治さんが内線で台所にいるであろう賢治さんを呼ぶ。
「おかしいな。出ない」
賢治さんは次に賢治さんと幸子さんの自室にかける。
「出ない」
見てこよう。
そう花咲は言い、ルドルフさんと幸子さんを除いた全員でルドルフさんと幸子さんの部屋に向かう。
「幸子さん。晩ご飯はまだですか~」
そう言いながら花咲がドアを開けようとする。
だが、
ガチャン。
ドアチェーンが引っかかり、内部が少ししか見えない。
「死んでるね~」
花咲のセリフに場が凍りつく。
「圭子! 高枝切りバサミを持って来てくれ!」
賢治さんが圭子さんに命令した。
「は、はい!」
圭子さんが高枝切りバサミでドアチェーンを切断しようとする。
しかし、なかなか切れない。
だが、コツを掴んだのか圭子さんはドアチェーンを一気に切った。
中に花咲と狗神が入る。
内部ではルドルフさんと幸子さんがアイスピックで脳天を貫かれて死んでいた。
狗神が部屋を確認する。
「窓が空いていますね。鍵は、ベッドの上にありますね」
花咲が死体に触れる。
「死後二十分くらいかな」
狗神が賢治さんに確認する。
「館の出入り口は二カ所だけですよね?」
「ああ、そして二カ所とも私が昼間から鍵を掛けている」
つまり、と狗神は言った。
「犯人は外にいる」
花咲だけが笑っていた。
俺は犯罪のチープさに呆れていた。
「まるで子供の悪戯だ」
許せないのはたぶん、そう、
「完全犯罪に程遠い安っぽい犯罪だ」
俺は今回は何もしない。
だから、賢治や圭子もきっと死ぬ。
「そして、誰も居なくなる……か?」
運が良ければ狗神たちは生き残るだろう。
運が良ければ、だが。




