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狗神黒の推理  作者: 狗神黒
狗神黒の謎解き編
13/33

毒殺

狗神黒を宮川朱鷺は警戒していた。

あれは危ない人種だ。

『なにが』ではなく『なにもかも』が危ない。

けれど、コノハには劣る。

同じERプログラムの天才だから分かる。

狗神黒はきっと、コノハに勝てない。

なら、わたしは?


この後、朱鷺に訪れたのは喜劇か? 悲劇か?


「たくさん泳いだね~」

「そうね」

私服に着替えた僕らは食事を食べていた。

ふと、ネットゲームでもしようかと考え、ゲーム機をネットに接続しようとする。

しかし、出来ない。

「あれ?」

「どうしたの?」

ルドルフさんの持ってきた料理に目を輝かせながら花咲が聞いた。

「いや、ネットに繋がらないんだ」

「へぇ」

花咲の興味は料理に移ったようで、僕はオフラインでモンスターを狩ることにした。


「さて、食後のデザートを持って来ますね」

ルドルフさんが席を立つと、賢治さんがそれを制した。

「私が持ってこよう」

「ですが……」

賢治さんはルドルフさんに囁く。

それが聞こえてしまうのは地獄耳だからなのか。

「ルドルフは子供たちに好かれている。だから子供たちと遊んであげなさい」

賢治さん。

見かけによらず、優しい人みたいだ。

ルドルフさんがトランプを取り出す。

「デザートとアイスが来るまで、ゲームでもしないか?」

榎本と僕は辞退した。

結果は分かり切っている。


「また私の負けか」

現在。ルドルフさんの三連敗。

当然勝者は狗神と花咲だ。

「アイスとコーヒーだ」

賢治さんがお盆に載せたコーヒーとアイスを各自に配る。

「食後のアイスは格別だねぇ」

花咲がアイスを食べる。

アイスのスプーンも銀食器だ。

そして、僕がアイスを半分食べた時に事件は起こった。

「ぐふっ……!?」

朱鷺が喉を押さえ、椅子から崩れ落ちのたうちまわる。

「朱鷺!」

「大丈夫!?」

賢治さんと圭子さんが大声を上げる。

南條さんが朱鷺の脈などを計る。

「残念ながら、死んでいます」

「そんな……」

「アイスをまだ一口も食べていないのに死ぬなんてもったいない」

そう花咲は言って、朱鷺が飲んでいたであろうコーヒーから砂糖をかき混ぜるスプーンを取り出した。

スプーンは黒ずんでいた。

「死因は硫黄化合物やヒ素化合物などの毒死だね」

「花咲?」

狗神が花咲の話しの続きを語る。

「銀は空気中の硫化ガス(硫黄ガス)と化学反応(硫化反応)し、表面に硫化銀の皮膜を作り変色してしまいます。 硫化銀の皮膜の厚さによって、薄いときは黄色、次に茶褐色に変わり、更に皮膜が厚くなると黒色になります。 硫黄温泉に銀を浸けた場合には急激に硫化反応が起こり、紫色に変色します」

「つまり?」

狗神は十字を切った。

「宮川朱鷺さんは毒殺されました」


朱鷺の死体はルドルフさんと南條さんが地下室に運んだ。

冷たいあの部屋なら死体の腐敗が遅くなるだろうという南條さんの提案だ。

地下室への鍵は南條さんが持っている。

「じゃあ、謎解きをしようか」

狗神と榎本は僕と狗神の部屋に来ていた。

「普通に考えたら賢治さんが怪しいよね」

僕は一般論を言ってみる。

だが、狗神と花咲の答えは違うようだ。

「僕らの考えは違う。確かに賢治さんが一番怪しい」

だからこそ。

と、狗神は『あの』狗神になる。

「一番最初に疑われるなんてリスクを犯人が犯すとは考えられない」

花咲は覚えてる? と聞く。

「なにが?」

花咲は僕のセリフだよ。と言い、再度そのセリフを言う。

「アイスをまだ一口も食べていないのに死ぬなんてもったいない」

それがどうした?

いや、まて。

毒殺。

江迎のことを思い出す。

江迎はケーキに毒を、クッキーに解毒薬を入れていた。

まさか!?

「アイスに毒の解毒薬が入っていた?」

「正解」

狗神は補足する。

「昼のアイスやコーヒーにも毒や解毒薬が入っていた可能性があります」

つまり、いつかはアイスより先にコーヒーを飲む人が現れるから、それを待っていたというのか?

「だとしたら、全員が怪しいんじゃないか?」

「はい」

狗神は頷いた。


「とりあえず警察に電話かな」

花咲のまともな提案に、僕らは賢治さんの部屋に向かった。

話は逸れるが、南條さんは一人部屋。ルドルフさんと幸子さんは同じ部屋。賢治さんと圭子さんは同じ部屋だ。

そして、言ってはいないが僕には大抵の毒は盛られても分かるという特技がある。

だが解毒薬を先に食べていたのなら、その特技は活かせない。

「賢治さん」

賢治さんの部屋のドアを叩く。

「なんだね」

賢治さんが出てきた。

気のせいだろうか?

老けて見える。

まあ、当たり前か。

実の娘が毒殺されたのだから。

僕はといえば、早くも死体に対する耐性が出てきたようで、先週みたいに取り乱したりはしなかった。

「警察に連絡して下さい」

花咲が言った。

賢治さんはノロノロと部屋の内部にある電話で島の外に電話する。

「……繋がらない」

え?

賢治さんはルドルフさんを内線を使い、呼ぶ。

「なんでしょうか?」

ルドルフさんは賢治さんの顔色を伺うようにこちらを見た。

「無線を見て来てくれ」

「分かりました」

ルドルフさんが館の外へ出ようとする。

花咲が僕の服の袖を掴んでルドルフさんの横に立つ。

「僕らも同行していいかな?」

「いいよ」

ルドルフさんと島の断崖絶壁にある無線を見に行った。

無線は大きな石によって粉々に粉砕されていた。

「接着剤とかでくっつけたら直らないかな?」

花咲がバカなことを言う。

「接着剤なら金属用の強力なものがあるよ」

「ルドルフさん。花咲のセリフは

話半分に聞いて下さい」

どうやらルドルフさんも朱鷺が死んでかなり動揺しているようだ。

「でも、誰が、なんのために?」

花咲が探偵モードになる。

そして、結論を出した。

居間に全員を集め、花咲は提案した。

「南條さん以外は基本的に二人ずつで行動して下さい。これは朱鷺さんを殺害したのが単独犯の場合、犯人の行動を制限するためです」

南條さんが尋ねる。

「なぜ、私は一人なんですか?」

花咲がニヤリと笑う。

「あなたは犯人をおびき出すためのエサです。仮にこの館に僕の知らない第三者がいたとして……」

空気が変わった。

それは花咲の犯人への挑発の結果なのか? それとも第三者という言葉のせいなのか?

「まず犯人は南條さんを狙います。だから、僕たちは南條さんに近付かなければアリバイを作れるんです」

言っていることは無茶苦茶だが、筋は通っている。

要は南條が殺されれば全員の無実が判明するのだ。

「私に死ねと?」

「ええ」

南條さんは何か考えこむ。

「分かりました。いいでしょう」

こうして、花咲による犯人探しが始まった。


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