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狗神黒の推理  作者: 狗神黒
狗神黒の謎解き編
11/33

死人が歩く館

翌日。

「お前らに良い話がある」

担任の先生。確か宮川先生がニコニコしながら言った。

「焼肉ではないが、美味しいご飯と美しい海があるぞ」

反応はそれぞれだった。

榎本は、

「はぁ?」

と、宮川先生に詰め寄る。

狗神は、

「……」

無言だ。

花咲は、

「美しい海。美少女……」

何か妄想している。

僕といえば……。

「で、理由は?」

宮川先生はサイフの中身を見せた。

給料日翌日だというのに三万円しか入っていない。

「実は昨日パチンコで大半を失ってなぁ……」

「「このアホ教師!」」

僕と榎本はデュエットで宮川先生を叱る。

パチンコは一万まで。

これは常識だ。

どうやったら給料をそんなにパチンコに注ぎ込めるんだ。

「すまん。だから、旅行に連れて行こうと思う」

旅行か。

ふと先週の旅行を思い出す。

あの嫌な事件を。

花咲によると、結局、間下さんは警察に捕まり、殺人罪で服役中だそうだ。

だが、依然として一宮さんの殺害は否定している。

「実は親戚の中で親しい者たちだけが行なっているパーティーが今週あるんだ。それに連れて行こうと思う」

パーティーか。

気分転換にいいのかもしれない。

「で、親はわたしたちが説得するとして、どこでパーティーをするの?」

宮川先生は歯をキラリと光らせて言った。

「宮川島だ」


昼休み。

「なんで狗神はまだその黒い服なんだ?」

狗神は一向に黒い服からこの学校の制服に着替えようとしない。

「秘密です」

「そう」

朝から気になっていたが、江迎が弁当箱を二つ持ってきている。

江迎がこちらに来た。

「あの……弁当を作ったんだけど、食べてくれるよね?」

イエスと答えるべきか?

いや、榎本が後で江迎になにをするか分からない。

榎本は忘れそうになるがいじめっ子だ。

朝から江迎が空気のように扱われているのも榎本がクラスメイトに指示した結果だろう。

大人しく弁当を食べれば榎本と江迎の血で血を洗う戦いが起きかねない。

仮にノーと言おう。

江迎が何をするか分からない。

もしかしたらクラスメイト全員に毒を盛るかもしれない。

「さぁ」

僕は携帯電話で素早くメモを打ち込むと、榎本に見えないように江迎に見せた。

「弁当は、食べないのね」

江迎が弁当箱を持って教室を出る。

僕はさて、と立ち上がる。

「僕は購買に行ってくるよ」

そして、屋上に上がる。

今時珍しくこの学校は屋上が開放されている。

屋上にはプランターが複数置かれており、屋上緑化に役立っている。

「遥くん〜」

先に屋上に来ていた江迎が抱きついてくる。

「なんで嘘をついてまで屋上で食べようなんて言ったの?」

「うん。いろいろあってね」

榎本が嫉妬するからとは言いづらい。

「それでさ。提案なんだけど、僕は君の二つ隣りの810号室なんだ。だから昼ごはんは購買で済ませるから、夜にご飯を作りに来てくれないかな?」

この提案は江迎にとってメリットがある。

具体的には言わないが、ようは通い妻というやつだ。

愛人気分を味わうにはうってつけだろう。

「うん。分かった」

ふぅ。

とりあえず血みどろの惨劇は回避された。

「じゃあ、いただきます」

「どうぞ。召し上がれ」

弁当を食べる。

素直に言おう。

美味しい。

「美味しいよ。それに冷凍食品が無いのもすごい。手間がかかったし、大変だったろ?」

江迎は顔を赤くさせる。

「……愛の」

「ん?」

「愛の力よ」

「そう」

聞き流し、弁当を黙々と食べる。

「ごちそうさま」

江迎が聞いてくる。

「美味しかった?」

「ああ、美味しかった」


そして、五月最後の金曜日。

「みんな、荷物は持ったか?」

宮川先生は若干気分が悪そうに見えた。

「荷物は車の後部座席に押し込め」

先生はそう言うと車のエンジンをかけた。

「先生。顔色が悪いですよ」

先生はそうか? と言った。

「実は朝生牡蠣を食ってな」

あぁ。

なんか嫌な予感がする。

「荷物は積み込み終わったわよ」

榎本が後部座席に荷物を文字通り押し込んだ。

助手席にはちゃっかりと狗神が座っている。

「じゃあ、宮川島へ向かうぞ」


それから数時間。

高速道路を通り、宮川島までの船がある港まで来た。

「ちょっとトイレ行って来る」

先生はそう言ってトイレに向かった。

「ヒマだしどうする?」

榎本が聞く。

じゃあ、と花咲が手をあげる。

「怖い話でもしようか」

「良いわね。もちろんオチはあるんでしょうね?」

花咲はうん、と頷いた。

「じゃあ話すよ」

花咲の話を要約するとこうだ。

昔々、ある島に美しい少女が居たらしい。

だが、その美しさを妬んだ男性により殺されてしまう。

だが、その日から男性の家の付近に少女そっくりの女の子がうろつき始める。

男性はついに発狂してしまう。

実は女の子と少女は双子で、少女を殺した復讐をするために、男性の周りをうろついたのだ。

うーん。

やっぱり文章にすると怖さが上手く伝わらないな。

遠くで救急車のピーポーという音がする。

携帯電話が振動し、メールの着信を知らせてくる。

「なんだ?」

メールは先生からで、簡潔に言うと、

「先生は生牡蠣で食あたりを起こして病院に連れて行かれたらしい」

榎本はあざ笑う。

「焼肉を奢らなかった因果応報ね」

「で、船と宮川島の人たちには僕たちのことは伝えてあるから先に行けだって」

狗神がスーツケースを転がして船に向かう。

「行きましょう」

「そうだね」


俺は今回は何もしなかった。

強いて言うなら、観察していた。

俺の同類。

ERプログラムの天才を。

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