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女奉行捕物帖  作者: 浅井
秋風秋葉原
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暁の出撃

「はつ、早く起きるんだ」


 忠愛の言葉で目を覚ます。外に目をやると、空は暗く青みがかっている。まだ日の出前だ。


「もう、こんな早くから何よ……」

「何って、草紙会に決まってるじゃないか!」


 まだまだ眠そうな忠春と違い、忠愛は意気揚々としている。


「こんな早くからって冗談でしょ…… 私はまだ寝るわよ」


 忠春はそう言い布団の中に潜り込もうとする。忠愛は本気だった。


「こんな素晴らしい日に冗談など言うはずないだろう! さあ起きるんだ!」


 布団の端を手に持ちばっと持ち上げる。布団から忠春がごろごろと転げ落ちる。


「ちょっ、何するのよ」

「さあ、草紙会に行くぞ!」


 薄暗い部屋の中でも分かるくらいの満面の笑みをしながら言った。忠愛の白い歯が光る。忠春の思ってた以上に忠愛はこの催しを楽しみにしていたようだ。


「ったく、分かったわよ……」


 忠春はあくびをしながらしぶしぶ目を覚まそうとする。





 袴羽織に着替えた忠春は居間へとやって来た。おにぎりに漬物といった簡単な朝ご飯が用意されている。どうやら全て忠愛が用意していたようだ。

 おのぎりの一つを手に取り頬張りながら忠愛に問いかける。


「そう言えば草紙会ってどこでやるのよ」

「神田の佐久間町と神田川を挟んだ向かい側の岩井町だ。要は秋葉原だな」


 忠春はおにぎりを呑み込む。


「意外と広い範囲でやるのね。もっと小じんまりとしていると思ってたわ」

「幅広い分野の本があるからな。戦国期の研究や、独自の軍法本なんかもあったな」


 忠愛は胸を張り答える。どうやらいろんな本があるらしい。


「いろんな人たちがいるのね」

「まあな。これに参加するほとんどの人はこの為に一年間働いているもんだからな」

「まったく、他の楽しみを見つけないさいよ。それで、私は今からそんな所に行くのね」


 それを聞いた忠春はため息をつき頭を抱える。その姿を見た忠愛が苦笑いをしながら言う。


「その言葉を聞くと俺の心が痛むな。しかし、お前も江戸を治める身なんだ。江戸のこんな一面を知っていても損は無いと思うよ」

「確かにそうかもしれないわね、そもそも行こうって言いだしたのは私だしね。細かいことはどうでもいいわ。それじゃ行きましょう」


 忠春らは屋敷の外へ出た。そこに義親が立っていた。


「忠春様、忠愛様、おはようございます」

「義親もごくろう様。まさかこんな早くに行くことになるとはね」


 忠春は目を覚ましたといってもまだまだ眠そうだ。あくびをして目をこする。


「いえ、ああいった催しには参加したことは無いので楽しみでしたよ」


 笑顔で義親が答える。


「素晴らしい! はつも義親を見習いなさい」


 横から忠愛が口を挟む。忠春はムッとした表情になる。


「余計なお世話よ兄上。早く行きましょ」


 そう言うと一行は秋葉原へと向かって行った。

用語解説


『神田佐久間町』 今の秋葉原周辺。万世橋と和泉橋の中間点くらいにある。ちなみに、当時の秋葉原は商店が多かったので、書画の店が多い設定。


『岩井町』 佐久間町から神田川を挟んだ向かい側の町。ここも商店が多かった。

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