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chapter2

「ただいまー」

「あ、亜矢ちゃん。おかえり」


わたしが家に帰ると、姉が先に帰宅していた。


「ねねね、亜矢ちゃん。ちょっと、聞いてくれる」

「うん、いいよ。何?」

「あのね、隣の席の男子、すっっっごくカッコいいの!何でも、学園のアイドルなんだって!」

「へぇーっ!それ、誰?何ていう人?」

「うーんと…確か、笹部 昴って人だったと思うけど」

「スバル!?今、笹部 昴って言った!?」

「うん、そうだけど…。それが、どうかした?」

「その人、生徒会長の人だよ‼」

「あぁ、そういえばそうだったね。…てか、何で知ってんの」


そう問われて、わたしは自分が生徒会役員を任されたことを伝えた。


「えぇー、いいなあ」

「えっ、どうして?」

「だって、笹部くんと一緒なんでしょ?」

「うん。…もしかしてお姉ちゃん、あの人のこと好きなの?」


わたしがそう尋ねると、姉は笑ってごまかした。

でも、面食いな姉のことだ。一目惚れする確率は、十二分にある。

その夜、わたしは昴と姉のことで頭がいっぱいになり、なかなか眠れなかった。

そして、翌朝。


「亜矢ちゃーん、早く起きてよーっ」


階下で姉にそう言われて、わたしはのそのそとベッドから抜け出し、階段を降りた。

そして、即行で用意をして、真新しい制服に身を包まれながら、家を出た。


「よぉ、佐藤姉妹」


少し歩いたところで、そう声をかけられた。振り向かなくても、声で分かる。昴だ。


「おはよう、笹部くん」


姉は昴を振り返って、そう言った。昴は、わたしの前に来て、おはよう、と言った。わたしは、仕方なく挨拶を返す。


「おいおい、どうしたんだよ。朝から、元気ねーじゃん」

「別に、そんなことない。それに、昴には関係ないじゃん」

「アヤ、もしかして、怒った?それって、俺のせい?」

「別に。怒ってなんかないし」


本当は、無性に腹が立っていたけれど、姉の手前、そんなことは言えない。これ以上、昴に絡まれると、姉に何をされるか分からないから。

それなのに、昴はなおも話を続ける。


「アヤ、俺のこと、好き?」

「…嫌い、だと思う。今は」

「何、その意味深な言い方!」

「意味深じゃないし。今は嫌いってだけ」

「これだから、アヤはかわいーんだよ。何か、妹みたいでさ」

「実際、わたしは妹だし。ちゃんと、お姉ちゃんいるから」

「分かってるってー」

「じゃあ、昴、お姉ちゃんの相手してきてよ。わたし、口が渇いちゃうから」

「おっけー。アヤの頼みごとなら、何でも聞いてやるよ」


そう言って、昴は姉に話しかけに行った。

お姉ちゃん、怒ってるかな。わたしが、ずっと昴と喋ってたから。まるで、友達です、とでも言うかのように。

昴の、ばか。昴が、姉の気持ちを知っているはずはないのだけれど、やっぱり怒りの矛先は、どうしても昴に向いてしまう。


「…おーい、アヤ?」


昴の声で、わたしは我に返った。


「大丈夫かよ、おまえ」

「ああ、うん…」


その後も、何度か同じことを繰り返しながら、ようやくわたし達は正門をくぐった。


「じゃな、アヤ」

「あ、うんっ」


高等部と中等部では、校舎が別々なので、わたし達は二手に別れた。

教室に入り、自分の席に着くと、クラスメイトが数人、集まってきた。


「おはよう、佐藤さん」

「あ、おはよう」

「ねぇねぇ。生徒会長、笹部先輩なんでしょう?」

「うん、そうだけど…」

「カッコ良かった?」

「え、まあ…。でも、まだよく分かんないよ」

「何が?」

「顔は確かに良かったかもしれないけど、性格までは分かんないでしょ?」

「そんなの、性格だっていいに決まってるじゃない、ねぇ?」

「そうよ、いいわよ。絶対よ!」

「ああ、そう…」


わたしがそう言って、話題に詰まった、丁度その時だった。


「あっ、笹部先輩‼」


クラスの誰かがそう叫んだかと思うと、男女問わず全員が、一人の例外もなく、廊下のほうへ視線を向けた。

昴は、そんな視線を無視して、わたし達の教室のドアを開けて、言った。


「アヤ、いる?」


静まり返った教室の中で、その声はやけに大きく聞こえた。そしてわたしは、「アヤ」と呼ばれて、条件反射的に立ち上がっていた。今まで昴に注がれていた視線が、今度はわたしに移されているのが、痛いほど分かった。

わたしは無言で昴の元へと歩み寄り、言った。


「何ですか」


少し尖ってしまったわたしの声に、昴は少し顔を歪めた。


「いま、時間ある?」

「あるように見える?」

「いや。うん、その……」

「で、何よ。お姉ちゃんは?」

「何で俺、あいつと喋んなきゃいけねーの?」

「別に、何だっていいじゃない。それに昴、わたしの頼みは何でも聞くって言ったじゃん」

「言ったけど、それはさ、その…。そーゆーことじゃねんだよ」

「じゃ、どういうことよ」

「…いーだろ、何でも!それより!何できのう、メール寄越さなかったんだよ」

「だって、特に用事なんてないんだもん」

「俺、ずっと待ってたんだぜ?」

「知らないよ、そんなの」

「…じゃ、待ってるから。きょうは、絶対メールしろよ」


そう言って、昴はその場から去っていった。わたしは、仕方なく席に戻る。みんなの視線が注がれているのは、分かっていた。だけど、だからといって、みんなに対して何か言おうとは、全く思っていなかった。


「ねぇ、佐藤さん」


そう声をかけてきたのは、クラスで一番小さい、真瀬(ませ)めぐみちゃんだった。


「何?」

「あの…佐藤さんって、笹部先輩と付き合ってるの?」

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