《2》癒花の章
私の名前は癒花。苗字はない。厳密に言うと覚えていない、だ。
私は5歳のときから霧ヶ森という家でお世話になっている。それは霧ヶ森 新という人が、私を拾ってここへ連れて帰ったからだ。当時のことはもう鮮明には思い出せないが、これだけは覚えている。私には父がいなくて、母と二人で暮らしていた。貧しかったが、それなりに楽しい日々を過ごしていたと思う。だけどある日、「人買い」がやってきた。子供を遊郭や奴隷として売り飛ばす「人買い」は、私の住んでいた界隈ではよく見られていた。近所の友達やその兄弟たちが、泣く泣く連れ去られ、わずかなお金だけが残る。それを嫌という程見てきたから、家に来た時もすぐにわかった。けれど母が言った。「母さんが仕事で遠くへ行くことになったから、しばらくの間預かってもらうだけよ。またすぐ会えるわ」私は頷いて、知らない男に手を引かれて、家を出た。しかし、車に揺られてしばらくすると私は「帰りたい」と泣いてしまって、男がめんどくさそうに言ったのだ。「お前は売られたんだよ!母親がお前を売ったんだ!」信じられなかった。気が付くと走行する車から飛び降りて、夢中で走っていた。振り返るとすぐに停まった車から男が飛び出して、迫ってくる。子供の足では、すぐに追いつかれてしまった。しかし、私は崖を落ちて、運よく男の手から免れた。