一夜夢の正論を
ボクは逃げていた。ボクは精一杯に両腕を振り、顔を左右に揺らしながら、必死に“生きよう”と懸命に走った。
後ろから迫るものは“闇”だ。真っ黒で、何も見えない闇が、ボクを飲み込もうと追い掛けてくる。逃げても逃げても、その闇との間隔は一定に保たれていて、立ち止まっても平気そうなのだが、飲み込まれる恐怖から、ただ頭は
「逃げろ」
と繰り返す。
「もう駄目だ」
足と脇腹が悲鳴を上げ、ボクは目をつむった。
ボクは目を開けた。そこはいつもと何ら変わりない空間だった。ボクの部屋だ。ベットが軋みながらボクを支えていた。まだ薄暗く、時計はいつも起きる時間より3時間も前を指していた。
部屋を取り囲む空気は、どんよりとしていて、先程の夢を思い出させた。思いきり首を振り、忘れようとした。
しかし、一度思い返してしまったものは、自然と頭に浮かんでしまう。真っ黒な闇、迫り来る闇、逃げても逃げても追ってくる闇。
ボクは震える体を両手で抱き締めながら深く溜め息をついた。冷や汗がバジャマの中をつたう。心臓がドクドクと耳に響き、周囲の静けさの中で、たった一人だけの生きている証の様だ。そう、まるで世界中に一人だけ。
ザワザワ…。突然、闇が動いた。そうだ、ボクは…。
ー…この闇から逃げていたんだ。
それからまた、逃げだすのだ。そして、眠りにつき、起きると闇に追われる。その繰り返し。
薬に侵された体は、悲鳴をあげている。そして今日も鬼ごっこが始まる。