4.厄介な関係
ツインレイなどというコアな話題を出してくる根舞羅。
ただ、それだけで比那と春川と根舞羅が友人の関係になれたわけではない。そこには、もう一段階が必要である。
幸いなことに──比那と春川にとっては鬱陶しいことに──根舞羅の家は北山の隣の新丘という場所にあった(比那と春川とは、小学生のころから北山の街に住んでいる。北山にある寺院や神社の庭は、彼女たちにとっては恰好の遊び場だった)。
そして、根舞羅の職場であるチーズケーキの店「タタント」は、北山駅から100メートルほどのところにあるN画廊の向かいにあったのである。
ある日、比那はチョコレート・チーズケーキを買いにその店「タタント」を訪れた。
そこに、店員の制服であるエプロンを身に着けた根舞羅がいた。
「いらっしゃいませ……あ、姉さん!? えっと、今日は良い天気ですね?」
──ニコニコと、戸惑ったように微笑んだ根舞羅。比那は思わず、当然ながら、彼以上に困惑した。
もともと、比那には仕事帰りにパン屋やケーキ屋に立ち寄って、お気に入りの甘いものを見つけて買って帰り、その日のささやかな気晴らしにするという習慣があった。
繰り返しになるが、比那にとって仕事はそれほどのストレスが溜まるものではなかった。が、それ以上に彼女はストレスや感情を発散するのが上手かった。ガサツな性格の精神にあっては、よくできた心馳せである。
その日も、比那はネット上のタウン情報誌でS市のパン屋事情の記事を読んでいて、「タタント」のことを見つけ、(意外にもこの近くに美味しそうなパンのお店……比那は、たとえケーキ屋であっても気に入ったお店があると、ひとまとめに『パンのお店』と呼んでいた……が、あるんだな)と、思ったのである。そうして、昼の勤務が終わると同時に「タタント」を訪れた。文字通り、小躍りするような気もちで……。
「うわ、嬉しいなあ、なんで俺また姉さんに会えたんだろう? 世話焼きだからかなあ……」
鬱陶しい理由をつけて、根舞羅は感動してみせた。しかも、比那のことを「看護師さん」ではなく「姉さん」などと言う(……それ以来、比那と春川は彼にとっての「姉さん」である。そして、その言い方が今ではすっかり馴染んでしまった)。
「さあ、ただの偶然じゃない?」
比那は、Rサンに対するときとは対照的な、奇妙に素っ気ない口調で根舞羅に答えた。そう……この関係がさらに鬱陶しいものになる、という予感があったのだろう。
「僕、霊感があるんですけれど、こういうのツインレイって言うらしいですよ。僕ね、きっと前世であなたのお兄さんだったんですよ。……ああ、俺もしかして殿様だったのかな? 俺武士だったのかな? 姉さんが妹で、姫で。それで、守りたかったんですけれど、守りきれなかったんですよ。だから、今回の生ではあなたのことを守りなさいって、神様に言われてるんですよ。だから、今回はあなたが姉さんなんですよ!」
「いや、私あなたの姉さんじゃないってば……根舞羅クン?」
「いや、姉さんっすよ。もう姉さんですよ。俺、決めましたもん。でも、ずいぶん年の離れた姉さんだなあ。前世でもあなたは年の離れた妹だったのかな? それとも早くに死んじゃったとか? だから、こんなにストイックな気もちになるのかなあ……これは、俺の運命だなあ……」
最初は、他愛もないスピリチュアルな話題だと思って聞いていたが、だんだんに重くなってきた。
(ツインレイ? せめて、ソウルメイトとかであってほしい……)
「それで、あの? 根舞羅クン? 今日は私、この店のチーズケーキ買いに来たんだけれど?」
「イイっすよ、イイっすよ、俺のおすすめはオレンジ・フロマージュ・チーズケーキなんですよ?」
「私、ネット情報誌で有名なチョコレート・チーズケーキを買いに来たんだけれど……」
「それもイイっすねえ、100円引きにしますよ?」
「500円引きとかじゃないの?」
「1個100円引きますから、100円引きですね~。500円引きにしちゃうと全然タダになっちゃいますから。俺のバイト代、なくなっちゃいますよ」
さすがにバイト代はなくならないだろうけれど、今日は自分と春川の分が2個ずつで合計4個。400円も値引きしてくれるのであれば十分だろうと思ったし、客としてごねるのも可哀想だと思ったので、比那は愛想よく引き下がった。
──それにしても、思わぬところで得をした。
「じゃあまた来てくださいよ? 必ずですよ? 姉さんは俺のツインレイですからね!」
「ツインレイじゃないけれど、分かったわ」
「ツインレイじゃないんですか? マジっすか? 弱ったなあ……」
根舞羅は天然です。




