国際マッスル・プロトコル。……あるいは、国家総動員のヨシヨシ・デスマーチ
「……ふにゃぁ。……なんだか、馬車のサスペンションが、……軍事用に換装されていますわ……」
私は今、窓の外を流れる「見覚えのない荒野」を虚無の瞳で眺めていた。
昨夜のフェスで、ヒルデガルド様とおっさん幻影が踊り狂った結果、周辺諸国の外交官たちが「これこそが我が国の生産性を救うパッチだ!」と確信。リリアーナの**『広域マッスル・セラピー・ツアー』**という名の、地獄のロードマップが承認されてしまったのだ。
「リリアーナ様、安心してください。……各国の『アクセス制限(国境)』は、アレン王子とカシアン閣下が物理的にクラッシュ(粉砕)して、最短経路を確保しましたから」
フェリクスが、徹夜で目が血走ったまま、十枚以上の『通行許可証(仕様書)』を捌きながら不敵に笑う。
「リリアーナ! 隣国の鉱山ギルドが『過労でストライキ寸前』だそうだ! 僕が先遣隊として、彼らの前でベンチプレスを見せつけ、現場の士気をバンプアップさせておくよ!(王子)」
「妹よ、安心しろ。……背後の補給路(プロテイン輸送路)は、私がベルシュタイン家の全財力を投じて『常時接続』にした。……君はただ、現場でビールを飲み、おっさんの愚痴をこぼすだけでいい!(兄様)」
馬車の前後を固めるのは、もはや騎士団ではない。
「アイドルの親衛隊」と化した、上半身裸の精鋭マッチョ集団である。彼らが「リリアーナ! ヨシヨシ!」「バルク! 命!」と叫びながら並走する姿は、他国から見れば「宣戦布告」以外の何物でもなかった。
「(……ひ、ひゃぅぅぅ……! 王子と兄様が、……完全に『仕様(自分)』を見失っていますわ……!)」
最初の寄港地。隣国の『大魔導鉱山』に到着した瞬間、私は鼻を突く「おっさんの汗と、魔力のショートした臭い」に、前世のデスマーチの記憶がフラッシュバック(再起動)した。
「聖女様……! 納期まであと三日……。魔石の抽出が追いつかず、……もう、……みんな限界なのです……っ!」
縋り付いてくる、真っ黒に汚れた鉱山技師たち。
私は、彼らの「死んだ目(前世の私)」に耐えきれず、つい本音を漏らしてしまった。
「……かわいそうに。……わかりますわ。……いいですか、……抽出効率が悪いのは、……貴方たちの魔力が足りないからではありませんわ。……重機のベアリングに、……潤滑油(油分)が足りないだけですわよ。……あと、……その、……『明日まで』とかいう無理なコミットは、……一度『強制終了(爆破)』してしまいなさい……」
「…………っ!!」
「聞いたか! 聖女様は仰っている! 『物理的な摩擦を取り除き、無理なスケジュールは物理的にデリートせよ』と! さあ、ダイナマイトを持ってこい!!(王子)」
「マッスル・リファクタリング(物理破壊)の開始だ!!(兄様)」
「ふにゃにゃにゃにゃっ!? ……ち、違いますわ! ……爆破しろなんて、……一言も……っ!!」
ドォォォォォン!! という景気のいい爆発音と共に、鉱山の一部が「再構築(再起不能)」され、なぜかそこから新種のレアメタルと、極上の温泉が湧き出した。
「おおお! 聖女様が、……我々の苦しみを温泉に変えてくださった……!!」
「これぞ、……究極のワークライフバランス……!!」
フェリクスがその光景を背景に、鼻血を出しながら各国の王族へ通信魔法を送る。
「……ええ、第1セクションのデバッグは完了です。……報酬は、……リリアーナ様への『極上ヨシヨシ権』と、……ビール100樽を要求(請求)します」
リリアーナの望まぬ「世界救済のデスマーチ」は、王子たちの暴走とフェリクスの集金システムにより、さらにカオスな多国籍プロジェクトへと膨れ上がっていくのであった。




