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頭皮を耕そうとしたら、救世主(メシア)と呼ばれました

王宮に呼び出される日々が続く中、私には新たな目標ができていた。


「……前世の俺……いや、私の父もそうだったが、男性ホルモンの活性化は時に、頭髪という名の『大事な装飾』を奪い去る。今世の私にその心配はないが、兄や父様、そしてアレン王子が将来、不毛の大地を抱えるのは忍びない……」


私はノートに、前世で培った「毛髪再生医療」の理論を魔法式へと翻訳し始めた。


【聖域ノート:毛根活性・土壌改良ポーション】

毛乳頭細胞の受容体に作用し、成長因子をブーストさせる。


Hair_Density = Σ(Cell_Division * Magic_Power) / DHT_Level


DHTジヒドロテストステロンの働きを魔法的に阻害し、血流を極限まで高める。これで、筋肉に回る栄養を髪にも分配できるはずだ!


「……できた。これを自作のスカルプブラシに充填し、頭皮に打ち込む!」


しかし、私は忘れていた。


私の体は、ブラシを頭に押し当てる力すら、数分で枯渇するということを。



数日後。王宮の夜会。


そこには、王妃様に付き添う形で参加した私と、その美貌を遠巻きに眺める貴族たちがいた。


特に、王国の政権を握る**宰相閣下(五十代・頭頂部は砂漠)**が、深いため息をついていた。


「……リリアーナ嬢。君のベルトのおかげで妻(王妃)は上機嫌だが……私のような者に、救いはないのかね?」


宰相閣下は、寂しげに自分の頭(不毛地帯)を撫でた。

私はピンときた。実験台……いや、困っている人を助けるチャンスだ!


「宰相閣下。実は、血管を拡張し、細胞の賦活を促す『頭皮用マジック・サプリ』を試作したのです。……ふにゃにゃにゃにゃ。ただ、私には塗布する力が足りないので、閣下、ご自身で塗り込んでいただけますか?」


「……ほう? まあ、気休めでも構わんが」


宰相が半信半疑で、私のポーションを頭に一滴垂らした。


その瞬間。


ドォォォォン!!


「な、なんだ!? 宰相の頭から……黄金の光が!?」


王宮の広間が騒然となる。


光が収まったそこには、かつて砂漠だった場所から、漆黒の、ライオンのたてがみのようなフサフサの髪が猛然と生い茂っていた。


「……な、なんだ、この……この、みなぎる生命力(毛根)はッ!?」


宰相が震える手で自分の頭を触る。


「生えている……! 指が埋まる! むしろ、生えすぎて視界が狭い!! リリアーナ嬢、君は……君は神か!?」


「あぁ……(やりすぎた。魔法で代謝を加速させすぎたか)。いえ、私はただ、血流を良くして筋肉に栄養を……」


「これだ! これこそが、我ら貴族が求めていた魔法だ!」


「リリアーナ様! 私も! 私のこの広大な平原にも、その恵みを!」


周囲のハゲ……もとい、悩めるおじさま貴族たちが、まるで聖母を仰ぐような目で私に殺到した。

だが、その熱気に当てられ、私はいつものように限界を迎える。


「あ……圧が強いです……。アミノ酸が、枯渇する……ふにゃぁ……」


白目を剥いて倒れそうになった私を、またしてもアレン王子が抱き止めた。


「……リリアーナ。君は、どこまで僕を驚かせれば気が済むんだ? 母上を若返らせ、今度は父上の忠臣ハゲたちまで手懐けるとは。……この『毛髪の救世主』め。君を他国へ渡すわけにはいかなくなったよ」


王子が私の髪を指に絡め、独占欲の強い瞳で笑う。


「……(いや、お前の将来の心配をしてやったんだよ)。……アレン様、近いです。暑苦しいです。私のキューティクルが傷みます……」


「ふっ、照れなくていい。君のそのツンとした態度も、今は愛おしいよ」


「(……だめだこいつ、話が通じねぇ)」


その後、宰相閣下を筆頭とする「フサフサ騎士団」が結成され、リリアーナは国の重鎮たちを完全に掌握。


本人の意図とは裏腹に、彼女の影響力は国家の根幹(と頭髪)を支えるまでになっていた。

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