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王宮に呼ばれたら、第一王子が不敵に笑っていました

ベルシュタイン伯爵家に、国王の刻印が入った親書が届いた。


内容はこうだ。


――『その魔法の帯を持って、リリアーナ・フォン・ベルシュタインは至急参内せよ。王妃が待っている』。


「ひゃわわわ……お、王宮? 嫌ですよ、そんな不特定多数の筋肉バルクに晒される場所。私はお姉様の膝の上で大人しくスクワットの計算をしていたいんです……」


「リリアーナ様、しっかりなさってください! 王妃様をお待たせするなど不敬に当たりますわ!」


サーシャに「ふにゃにゃにゃにゃ」と引きずられながら、私は豪華な馬車に押し込まれた。


王宮の奥。そこには、この国の頂点に立つ美魔女、イザベラ王妃がいた。

四十歳を過ぎているとは信じがたい、磨き抜かれた美貌。そして、その横には、自信満々に微笑む第一王子、アレン。


「……君がリリアーナか。噂のベルトの噂は聞いている。母上のために、それを差し出してもらおうか」


アレン王子が、まるで「君のことは分かっているよ」と言わんばかりのイケメンスマイルで私を見下ろす。


「(……あ、こいつ、バルクはいいけど性格が面倒くさそうなタイプだ)」


私は内心でおっさん全開の毒づきをしたが、王妃様の姿を見た瞬間、すべての思考が吹き飛んだ。


「お、お、お……王妃様……! なんという気高い大腿四頭筋のライン……! 美しい……まさにこの国の至宝……!」


「あら。私をそんな情熱的な瞳で見るなんて、面白い子ね。さあ、その『魔法の帯』を見せてちょうだい」


私は震える手で、王妃様に『重力相殺ベルト・マークII』を差し出した。


「お姉様……いえ、王妃様。これは重力加速度、すなわち F = m * g を魔力的に制御し、姿勢を維持する補助器具です。……お気に召せば、私を好きなように踏んで……いえ、可愛がってください!」


王妃様がベルトを巻いた瞬間。

彼女の表情が、驚愕と歓喜に染まった。


「……信じられないわ。コルセットの締め付けが消えたのに、お腹が、お腹が魔法のように平らだわ! それに、この肩の軽さ……! 私、今ならこのままワルツを十曲踊れそうだわ!」


「お気に召して光栄です……。ふにゃぁ、王妃様の笑顔、眩しすぎる……」


私は王妃様の放つ美魔女オーラに当てられ、いつものように力尽きて膝から崩れ落ちた。……のだが。


「おっと。危ないじゃないか」


ガシッ、と。

地面に激突する寸前、第一王子アレンが私の腰を抱き止めた。


「な……っ!? (離せ、俺……じゃなくて私の前精鋸筋が汚れるだろ!)」


「ふっ。そうか。母上への献上を口実に、僕に会いに来たんだね。倒れるふりをして僕の腕の中に飛び込むなんて、なかなか大胆な誘い方だ、リリアーナ」


アレン王子の顔が近い。熱い。

彼は私の耳元で、甘い声で囁いた。


「安心するといい。君ほどの『美の天才』だ。僕の婚約者候補として、王宮に囲っておく価値は十分にある……。君も、それを望んでいるんだろう?」


「……えっ? (何言ってんだこのハイスペック勘違い野郎)」


私が絶句していると、王妃様がアレンの手をパチンと弾いた。


「アレン、離しなさい。リリアーナは私の『お気に入り』よ。あなたの遊び相手にするには惜しすぎるわ。……ねえ、リリアーナ? あなた、これから毎日王宮に来てくれるかしら?」


「はい! お姉様のためなら、喜んで這ってでも参ります!」


「ふふ、いい子ね。ヨシヨシ」


王妃様の膝の上で、幸せそうに「ふにゃん」と溶ける私。

それを見て、アレン王子はさらに不敵な笑みを深めた。


「……なるほど。母上を味方につけて、外堀から埋める作戦か。面白い。その挑戦、受けて立とうじゃないか、リリアーナ!」


「(……いや、違うんだってば)」


本人の知らないところで、王妃様による「溺愛」と、王子による「ストーカー級の求婚」が、同時に幕を開けた瞬間であった。

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