侍女の恋、再び。……筋肉の好みは「遺伝」しますの?
「……はぁ。……やはり、あの『厚み』……忘れられませんわ」
ある日の夜、サーシャが遠い目をして呟きました。彼女が手にしていたのは、お嬢様が開発した「超高濃度プロテイン」の空き瓶。……ではなく、それを使っていた「逞しい男性」の残像でした。
かつて、リリアーナの薬でお父様(伯爵)が美魔男化した際、誰もが引く中でサーシャだけは瞳を輝かせていたのです。
「……ふにゃ!? サーシャ、その熱い吐息。……第14話で芽生えた『マッチョ専』の魂が、ついに本格的なオーバーヒートを起こしましたのね!」
「お、お嬢様! ……否定はいたしません。……私、お嬢様のそばに居すぎて、いつの間にか『細い男』では物足りなくなってしまったようなのです。……丸太のような腕、岩のような胸板……それがないと、なんだか安心できなくて……」
なんということでしょう。
リリアーナの「おっさん脳」が、一番身近な侍女に感染していたのです。
聞けば、最近サーシャが気になっているのは、王宮に仕える**「重装歩兵部隊の分隊長」**。リリアーナの薬をいち早く取り入れ、軍の中でも一際「冷蔵庫のような体格」になった、実直なナイスミドルです。
「(……ふむ。……お父様系統の、渋くて厚みのあるバルク。……サーシャ、貴女もなかなか『通』なところを攻めますわね……)」
「……でも、お嬢様。私のような侍女が、あんなに立派な大胸筋(お方)に声をかけるなんて、おこがましいですわ……」
「……何を仰いますか! 恋とは『最大筋力』のぶつかり合い! さあ、サーシャ、私の特製**『フェロモン配合・超回復マッサージオイル』**を持って、彼の訓練場へ突撃しますわよ!」
「……それは、何に使うのですか? 嫌な予感しかしませんわ!」
訓練場に到着すると、そこには汗を滴らせながら、巨大な鉄球を軽々と持ち上げる分隊長の姿がありました。
「(……ふにゃぁ。……見てください、あの僧帽筋の盛り上がり。……まさに『ベルシュタイン印』の完成された美しさですわ!)」
「……っ。……あ、あの……分隊長さん……!」
サーシャが勇気を出して声をかけると、分隊長は「おや、ベルシュタイン家の侍女殿か」と、はち切れんばかりの二の腕を揺らして振り返りました。
「……いつもお嬢様がお世話になっています! これ、お疲れの体に効く、お嬢様特製の……プロテイン入り手作りクッキーですわ!」
「おお、これはありがたい! ベルシュタイン家のプロテインは、そこらの魔法薬よりよほど力が湧くからな!」
分隊長が豪快に笑い、クッキーを一口。その瞬間、彼の筋肉が「パキパキッ!」と音を立ててさらに膨張し、着ていた隊員服の袖が文字通り爆発しました。
「うおおおぉ! 漲る! 漲るぞぉぉ! 侍女殿、君のクッキーを食べたら、あと百回はスクワットができそうだ!!」
「キャーッ! 素敵ですわ、分隊長さん! その、布地を突き破る広背筋、最高ですわ!!」
「……ふにゃぁ。……上手くいきましたわね。……サーシャの顔が、かつてないほど『おっさんスマイル』で満たされていますわ」
普通の令嬢なら悲鳴を上げて逃げ出す「服の爆破」を、サーシャはうっとりと見つめていました。
リリアーナは、自分の「筋肉至上主義」が、ついに完璧な形で他人の幸福に貢献したことを確信し、満足げに鼻歌を歌うのでした。




