パワードスーツを作ったら、ダイエット革命が起きました
「ふにゃにゃにゃにゃ……。だめだ、もう一歩も歩けない……」
私は廊下のど真ん中で、文字通り「溶けて」いた。
原因は、自室から食堂までのわずか二十メートルの移動だ。十四歳の私の体は、自分の体重という名の重力にすら勝てない。
「お嬢様! また廊下で液体になっています!!!」
駆け寄ってきたサーシャに抱え上げられながら、私は固く誓った。
筋肉がないなら、機械(魔法)に頼ればいいじゃない。
「……そうだ。魔力駆動の『外骨格』を作ればいいんだ。これがあれば、私は歩ける、いや、スクワットだって百回はこなせるはず……!」
私は這うようにしてラボに戻り、ノートを広げた。
【聖域ノート:魔力補助型・姿勢制御外骨格(仮)】
重力加速度 (g) に対抗する反発磁界を、以下の式で定義する。
F = m * g - (Magic_Factor * Current_MP)
腹部周囲に魔力を集中させ、体幹を物理的に固定。これにより筋力不足を補う。
私は、伯爵家に伝わる魔力伝導糸と、最高級のシルクを掛け合わせ、一本のベルト状の器具を作り上げた。
「……よし。見た目はただの細い帯だが、中身は最新鋭のパワードスーツだ。これを腹部に巻けば、魔力の反発力でお腹周りがガチガチに固定され、姿勢を維持できる……!」
私は早速、その試作機を腰に巻き、魔力を流した。
「……っ! 浮く、浮くぞ! 背筋が鋼鉄の柱になったようだ!」
今まで豆腐のようだった腹部が、魔法の斥力によってキュッと引き締まり、姿勢が強制的にモデルのように矯正される。
「これだ! これで私は重力に勝った!」と歓喜した瞬間、またしても「彼女」が現れた。
「あらリリアーナ、今日も何やら楽しそうなことをしているわね?」
公爵夫人、エレノアお姉様である。
その後ろには、なぜか私の兄カシアンと、夫人の息子ヴィンセントも控えていた。
「お、お姉様! 見てください、この『重力相殺ベルト・マークI』を! これがあれば私は……」
「……リリアーナ、それより、あなたのそのウエストはどうしたの?」
夫人の目が、獲物を狙う鷹のように鋭くなった。
魔力で強制的に引き締められた私のウエストは、コルセットで無理やり絞った不自然な細さではなく、完璧な「黄金比」のくびれを描いていたのだ。しかも、呼吸は全く苦しくない。
「え? ああ、これは魔力の反発で内臓を……じゃなくて、体幹を保護しているだけで……」
「……信じられない。コルセットなしでその細さ? しかも、あなた今、全力で深呼吸したわよね? 全く苦しそうじゃない……!」
夫人が震える手で私の腰に触れる。
「……何これ、柔らかいのに、芯がある。リリアーナ、これ……これがあれば、あの呪わしいコルセットから、全女性が解放されるわ……!」
「……えっ?」
「リリアーナ! 僕もだ!」
ヴィンセントが身を乗り出してきた。
「僕も最近、騎士団の訓練で腰を痛めていてね……。その、腰を支えるという魔法のベルト、ぜひ僕にも試させてくれないか!」
「ヴィンセント様、これは筋肉を甘やかすためのものでは……」
「黙ってなさいヴィンセント! これはまず私が試すのよ!」
夫人が私のベルト(パワードスーツ)を奪い取り、自分のドレスの上から装着した。
直後、夫人の瞳が驚愕に見開かれる。
「……っ! 軽い! 体が羽根のようよ! お腹周りがキュッと締まるのに、食事も三杯はいけそうだわ……! リリアーナ、あなたという子は、なんて恐ろしいものを作ってしまったの!」
「ひゃいぃっ! 好きですお姉様! でもそれは、スクワットをするための補助器具で……!」
夫人に抱きしめられ、香ばしい美魔女の香りに包まれながら、私は理解した。
まただ。
また、筋肉とは無縁の「超便利アイテム」として世に放たれてしまったのだ。
「(……クソ。また女子力が上がっちまった。俺は、俺はゴリゴリのパワーリフターになりたいだけなんだ……!)」
その横で、サーシャがノートを神々しそうに眺め、呟く。
「『重力を殺す聖帯』……。お嬢様はついに、この世界の物理法則まで支配し始めたのね……」
リリアーナの「重力に負けないパワードスーツ」は、翌日から社交界で『一瞬で腹が凹む魔法のベルト』として予約が殺到することになるのであった。




