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社交界の至宝。……の耳は、心筋の鼓動を捉えて離さない

ついにこの日が来てしまった。ベルシュタイン侯爵家の令嬢、リリアーナの公式デビュー――デビュタント。


会場である王宮の広間に足を踏み入れた瞬間、喧騒は潮が引くように消え、静寂が支配した。そこには、夜空の星を織り込んだかのような銀糸のドレスを纏い、透き通るような白い肌を露わにした、**「神の最高傑作」**がいた。


「……おお、あれが『美の聖女』……」


「なんて儚げで、凛とした佇まいなんだ……」


周囲の賞賛(勘違い)を浴びながら、私はしずしずと歩を進める。……実のところ、ドレスの重み(3kg)に僧帽筋が耐えきれず、一歩ごとに「ふにゃ……膝が……膝が笑っている……」と内心で絶叫していたのだが。


「……お待たせ、リリアーナ。今日の君は、僕の語彙力では表現しきれないほど美しい」


正装に身を包んだアレン王子が、跪いて私の手を取った。その姿はまさに絵画から抜け出してきた王子のそれだったが、私のセンサーは即座に別の情報をキャッチした。


「(……ん? 今、王子の掌から伝わった振動。……この微細なパルス。……間違いない、王子の不随意筋ふずいいきんが、異常な高揚状態にある!)」


「さあ、一曲踊ってくれるかい? 僕の愛しい人」


「……ふにゃぁ。……喜んで、王子。……(好都合です。密着すれば、あなたの『心臓という名の筋肉』を至近距離でサンプリングできる……!)」


ダンスが始まった。王子が私の腰を引き寄せ、密着する。周囲からは「なんてお似合いのカップルだ」と溜息が漏れるが、私の意識は王子の胸板一点に集中していた。


「(……聞こえる。聞こえるわ、王子。……僧帽筋の奥底、肋骨の裏側で脈打つ、最強の不随意筋……心筋しんきんのビートが!)」


私は王子の胸にそっと耳を寄せた。世間的には「恥ずかしそうに寄り添う令嬢」という最高に可憐な図だが、実態は**『生体心音聴診モード』**である。


【聖域ノート:王子の心筋稼働効率】

Heart_Rate = 120 bpm (高回転状態)

Vibrational_Intensity = 8.5 dB


分析:左心室の収縮力、申し分なし。……ふにゃ、この僧帽筋の緊張と連動した不整脈……これは『愛』ではなく、過剰な『筋緊張』による共鳴効果……!?


「リリアーナ……。そんなに僕の心音が聞こえるほど近くに……。君は、僕がどれほど緊張しているか、分かってくれているんだね」


「……ええ、王子。……分かります。……あなたの左心室が今、強烈な収縮ストロークを繰り返し、全身に新鮮な酸素を送り出している音が……。……ふにゃあ。……なんて無駄のないピストン運動……。……もっと聴かせてください、あなたの『生命のドラム』を……」


「……感想が相変わらず理系おっさんすぎるけど、……まあ、いい。君が僕の胸から離れないなら、今はそれで満足だ」


王子の胸に顔を埋めたまま、うっとりと(筋肉的に)恍惚とする私。会場の者たちは、その「抱き合う二人の美しき沈黙」に涙し、拍手喝采を送った。


「(……あぁ、幸せ。……この心筋の厚みから推測するに、王子の心臓は並の細マッチョを凌駕する『高密度ポンプ』だわ。……ふにゃにゃにゃにゃ。……次は、エコー(超音波)の魔道具をドレスの下に仕込んでくるべきでしたわね……)」


こうして、伝説として語り継がれる「王都で最も美しい舞踏会」は、主役である令嬢が王子の心筋を徹底解析するという、狂気と神秘の狭間で幕を閉じた。


翌日の新聞には「王子の愛の告白に、侯爵令嬢が胸を借りて感涙」と書かれたが、実際に流れていたのは、私の「鼻血寸前の興奮(解析成功)」による涙であったことは、言うまでもない。

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