表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/35

追憶の守護者。なぜ私は「力」を求めるのか

私は時々、夢を見る。


バニラの香りのプロテインでも、重いバーベルの音でもない。もっと冷たくて、鉄の匂いがする、暗い夜の夢だ。


「……ふにゃぁ。……また、あの夢」


十四歳になり、人並み以上の美貌を経てなお、私の体は虚弱なままだ。


前世で45歳のおっさんだった記憶があるから、私は筋肉を愛している。……ずっとそう思っていた。


けれど、心の奥底。魔力の深淵には、それだけではない「原風景」がこびりついている。


私がまだ、三歳にも満たなかった頃の話。

当時のベルシュタイン家は、今よりもずっと危うい立場にあった。


生まれながらに膨大な魔力を持ち、けれどその器(体)が余りにも脆かった私。


「触れれば壊れる魔力の塊」を、隣国の息がかかった悪徳侯爵が見逃すはずもなかった。


「……連れて行け。その娘の魔力があれば、我が家は王をも超える力を手にする」


嵐の夜。屋敷の結界が破られ、黒装束の刺客たちが私の寝室に踏み込んできた。


当時、父も兄も遠征で不在。


絶体絶命の私の前に立ちふさがったのは、一人の老騎士だった。


「お嬢様……お下がりください。……この命に代えても、あなたを『不自由』な場所へは行かせません」


彼は老いていた。筋肉は全盛期を過ぎ、傷だらけだっ

た。


けれど、彼が私を守るために剣を振るった瞬間、私は見たのだ。


刺客の刃を弾き飛ばし、私を抱き抱えるその腕に宿る、鋼のような「意志」と、それを支える「筋繊維の躍動」を。


血を流しながらも、彼は笑っていた。


「……強いことは、自由であることなのです。……お嬢様。どうか、いつかご自身を……守れるほどに……」


老騎士が倒れる中、私は雨の庭へと放り出された。

そこへ駆け寄ってきたのは、私とさほど歳の変わらない、一人の少年だった。


「……泣くな。僕が、君を離さない」


少年の顔は、暗闇と雨でよく見えなかった。

けれど、彼は震える小さな腕で、私の体を必死に抱きしめた。


追っ手の刃が彼をかすめても、その腕の「力」は決して緩まなかった。


子供の細い腕。けれど、そこには絶望を撥ね退ける、確かな「筋肉の収縮」と、熱い「生命の鼓動」があった。


――その日、侯爵家は取り潰された。


私は保護されたが、あまりの恐怖に当時の記憶の多くを封印してしまった。

今、私が異常なほどに「発達した筋肉」に惹かれる理由。


それは、前世の趣味だけではない。


「力がないことは、奪われること」


あの嵐の夜。私を暗闇から救い出してくれたのは、美しい言葉でも魔法でもなく、物理的に私を抱え、守り抜いた「筋肉の力」だったから。


「(……だから私は、今でも求めてしまうのね)」


鏡に映る、折れそうなほど細い私の腕。

この世界で、誰にも奪われず、そして大切な誰かを守るために。


私が「冷蔵庫のようなバルク」を求めるのは、幼き日の私が抱いた、切実な「自由への渇望」の現れだったのだ。


「……ふにゃにゃ。……さて、感傷はここまでですわ」


私は震える手で、再びフラスコを握る。


「(……あの時の少年。……今はどこで、どんな筋肉を育てているのかしら。……もし再会できたら、最高のプロテインを飲ませてあげたい……)」


その少年が、今、私の隣で空回りしながら筋トレに励んでいる「あの彼」だとは、まだ気づく由もない。


私はただ、自分の虚弱を呪いながら、明日もまた「最強の肉体」を求めて化学式を綴り続ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ