完璧なデート(予定)は、筋肉の観察会に変わりました
マッチョ化して「美魔男」の極致に至ったお父様を見て、アレン王子は危機感を募らせていた。
「このままでは、リリアーナの視界は筋肉(肉塊)だけで埋め尽くされてしまう……。今日こそは、筋肉の介在しない『純粋なロマンス』を彼女に教えるんだ!」
王子の誘いにより、私は王都の最新鋭デートスポットへと連れ出された。
白い手袋を嵌めた王子が、エスコートのために優雅に手を差し伸べる。
「さあ、リリアーナ。今日は筋肉のことは忘れよう。この最高級の馬車、座り心地はどうだい?」
「……ふにゃぁ。……お気遣いなく。……それより王子、御者の彼の前腕筋を見ましたか? 馬の手綱を捌くたびに、腕橈骨筋がピクピクと……。あぁ、いい仕事をしてますわね」
「御者の腕を見なくていい! 僕を見てくれ!」
王子が予約したのは、王都を一望できる「天空のレストラン」。
花々に囲まれたテラス席で、王子は甘い言葉を紡ぎ始める。
「見てごらん、リリアーナ。この街の輝きは、君の瞳に比べれば……」
「……ふにゃにゃ。……あ、見てください王子。あそこの給仕係の男性。……あのお盆の持ち方、上腕三頭筋にかなり負荷がかかっています。……でも、左側に重心が寄っている。……ふにゃ、このままだと脊柱起立筋を痛めますわね。……今すぐポーション(プロテイン)を処方してあげたい……」
「給仕の腰の心配をするな! 僕が今、君の瞳の話をしていたんだよ!」
王子のエスコートは完璧だった。
差し出されるシャンパン(ノンアルコール)、最高級のデザート、そして計算し尽くされたイケメンスマイル。
だが、私の視線は常に王子の背後、あるいは通り行く人々の「肉体の躍動」へと吸い寄せられてしまう。
「(……あぁ、あの市場の荷運び人。……あの大胸筋の厚み。……あれこそが、本物の『生活筋』。……ふにゃあ、あそこに顔を埋めて、乳酸の匂いを嗅ぎたい……)」
「リリアーナ! 今、僕の横を通り過ぎたおじさんの胸板を見て、うっとりしなかったかい!?」
「……してませんわ。……ただ、彼のベンチプレスのマックス重量を推測していただけです。……ふにゃ。……王子、あなたのその完璧なエスコートは、まるで『サプリメント』のようですわね」
「サプリメント……? 栄養があるという意味かな?」
王子が期待に目を輝かせた瞬間、私はトドメの一撃を放った。
「……いいえ。……『実体がない』という意味です。……筋肉という名のメインディッシュがないフルコースなんて、ただの白米(糖質)抜きダイエットですわ」
「デートを食事制限に例えるのはやめてくれぇぇぇ!!」
王宮一のイケメン、アレン王子の絶叫がテラスに響き渡る。
結局、デートの最後には、王子が「リリアーナ、せめて僕のこの引き締まった腹筋だけでも見て……」と、必死に(脱がない程度に)腹圧をかけてアピールするも、私は道端の石像(の筋肉表現)に夢中で、一ミリも見ていなかった。
「……あぁ、今日のデートも、私の網膜が喜びましたわ。……王子、また美味しい筋肉……いえ、景色を見せてくださいね。……ふにゃ」
「……もう、僕が君にとっての『筋肉』になるしかないのか……?」
王子の瞳に、禁断の光が宿る。
完璧なエスコートを筋肉に敗北させられた彼は、ついに「筋肉そのもの」へ、さらなる深い憎しみと憧憬を抱くようになるのであった。




